文・写真/神 咲子(在ストックホルムコーディネイター)
スウェーデンの朝食に欠かせないものといえば、クネッケブルード(Knäckebröd – クリスピーブレッド)。基本の素材は、水、ライ麦、塩、イーストの4つだ。歴史を遡ると、通称“倉庫パン”といわれていたようだ。その理由は、小川に隣接したミル(製粉場)に水が溜まる春と秋に合わせて、1年に2回作られるパンを、半年間もかけて天井に吊るし乾燥させていたから。飲み水や小麦、調理の火が希少な時代に保存が利くようにとできた、昔の人の知恵が詰まったパンなのだ。
スタンダードなクネッケ。真ん中に開いた穴に、天井から吊るされた棒を通して乾燥させる。
クネッケの名前の由来となる麺棒。Krusknäck(クルースクネック)またはBrödknäck(ブルードクネック)と呼ばれ、Knäcktは、割れる(動詞)、割れた(形容詞)という意味。食べる時に、バリバリッと割れやすくなる模様がつく。
クネッケベルト(地帯)といわれるのが、スウェーデン中部のダーラナ地方を中心に、隣接するノルウェーとフィンランドの一部を楕円形で囲ったエリア。その地帯に住む人びとは、いまも一年中クネッケを食べているという。
ちなみにそのクネッケベルトから北は、柔らかく薄い大麦で作られるトゥンブルード(Tunnbröd)、そして西部のヴェストラ・ヨータランド地方は山食のような柔らかいパン、そして南部のスコーネ地方はカーブリング(Kavring)という黒くて甘いパンが伝統の常食パンとなっている。
クネッケは何かをはさんでサーブされるのは稀で、ほとんどがオープンサンド形式。カフェやレストランではなく、たいていは家で食べるものだ。のせる具はいろいろだが、玉子にタラコクリームがマストアイテム。クネッケオタクに言わせると、日本人が麺類を食べる時にズズーッとすする音をたてるように、クネッケを食べる時はバリバリッと軽快に勢いよく音をたてるのが通の食べ方なのだそう。
クネッケオタクの同好会による、2月19日のクネッケの日を祝って作られたクネッケ製カレンダー(笑)。
ほとんどのクネッケはライ麦の全粒粉が使用されており、栄養価が高くファイバーも豊富に含んでいる。そのため、病気になると日本のお粥ではないが、「水を飲んで、クネッケ食べて寝なさい!」と言われるぐらい身体にも良い食べ物として浸透している。
世界各地のさまざまなパンの登場で、昔は月に一家庭8kgのクネッケを消費していたのが最近では半分の4kgに激減したものの、スウェーデンのクネッケ業界は負けてはいない。サンフラワーシードやいま流行りのサワードウ(天然酵母)を使ったクネッケなどで巻き返しに挑んでいる。私は、やっぱり昔からのオーソドックスなクネッケがいちばんだけどなぁ……。
多種多様なクネッケ商戦。現在は、家では作らず購入して食べる。
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音をたてて食べるのが通、スウェーデンのオープンサンド。|特集|Travel|madameFIGARO.jp(フィガロジャポン) - フィガロジャポン
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