Thursday, August 20, 2020

同じお菓子食べる幸せを 糖尿病のパティシエ奮闘 - 日本経済新聞

鹿児島市の閑静な住宅街に、全国から予約が殺到する「低糖質スイーツ」で評判の洋菓子店がある。オーナーの高谷浩史さん(47)は21歳で1型糖尿病を発症し、子どもたちと同じケーキでお祝いができない寂しさや、食事制限のつらさを味わってきた。「糖質制限が必要な人とそうでない人が同じお菓子を食べられる幸せを」と願い、新商品の開発に奮闘する。

低糖質ケーキを手にするパティシエの高谷浩史さん(6月、鹿児島市)=共同

低糖質ケーキを手にするパティシエの高谷浩史さん(6月、鹿児島市)=共同

病気が判明したのは大学3年の夏。直前まで健康そのもので、なぜ自分がという思いが拭えなかった。「一生治らない。決められたものしか食べられない」。医師にそう告げられ、両親は病室で泣き崩れた。

病気を理由に内定を取り消され、ようやく就職が決まった会社も体調不良ですぐに退職した。「社会は自分を必要としていない」。絶望のどん底で山に引きこもりたいと考え、広島県のスキー場の料理店で働いた経験が運命を変えた。

腕を買われ、福岡の有名ホテルで菓子担当を務めるように。病気を隠し、インスリンを打つ暇もない多忙さや試食で体調を崩しながらも、自分が作ったケーキで笑顔になる人を見て、のめり込んでいった。

2017年秋、「病気で普通のケーキが食べられない人に、クリスマスケーキをあげたい」と依頼を受けたのを機に低糖質スイーツ作りを始めた。今ではプリンやケーキ40~50種類をそろえる。天然甘味料を使いながらもしっかりした甘さや繊細な食感を残し、品質も妥協しない。安全性を確かめるため、必ず自身が試食して食後の血糖値を調べてから商品化する。

持病に悩む人だけでなく、糖質制限ダイエットに励む人や体重管理が必要なアスリートなど、幅広い層から喜びの声が届く。高谷さんは「病気になったことも含め、低糖質スイーツを作るための導きだったような気がする」とほほ笑んだ。〔共同〕

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