Thursday, February 20, 2020

食べると肛門が言うことを聞かなくなる魚、七転八倒級毒キノコ…野に出て拾い食いする男の野食記 - ダ・ヴィンチニュース

『野食ハンターの七転八倒日記』(茸本朗/平凡社)

 世の中にはありとあらゆる趣味を楽しむ人々がいる。その中でも変わったジャンルに属するのが、「プロの拾い食いマン」と名乗る茸本朗さんだろう。茸本さんは、なんと野外で採取してきた食材を普段の食卓に活用する「野食」をライフワークにしているのだ。
 
 野食はお店で購入する食品や食材と違って、安全が確保されているわけではない。茸本さんは、野外で採取したとても美味しい食材と出会って「脳内麻薬がどばどば出る」ほど喜びを感じる一方で、大変にマズイ食材と出会って涙を流したり、ときには中毒を起こして体調を崩したり…とさまざまな経験をしてきた。『野食ハンターの七転八倒日記』(茸本朗/平凡社)は、そんな野食活動で出会った食材たちを紹介する1冊。どちらかというと「ハズレ食材」の紹介が多く、タイトル通り「七転八倒」してきたようなので、その模様の一部をお届けしたい。

流通禁止の魚を食べて(社会的に)死にかけた

「ワックス魚」という魚をご存じだろうか? 茸本さんは、これを食べて大変な目に遭ってしまった。

 魚の中には、体を浮かす浮力の調整を行う器官「うきぶくろ」の代わりに、体に脂肪を蓄えて浮力を増加させる種がいる。キンメダイやノドグロといった魚がそれにあたり、脂肪が多くトロっと美味しいことでも知られている。

 一方、深海魚のバラムツやアブラソコムツも体に脂肪を蓄えて浮力を得ているのだが、食用にもなるキンメダイと違い、「ワックスエステル」と呼ばれる「ろう」のような脂をためこんでいる。人間が食べても体内で消化・吸収できないため、そのまま脂が排出されてしまうのだ。

 ややこしいことに、人間の舌では両者の区別がつかず、どちらを食べても美味しいと感じてしまうそう。バラムツやソコムツの流通は、食用として危険なため禁じられているのだが、自分で釣って食べるぶんには(多々問題はあるけど法律的には)問題ない。だから、食べちゃう釣り人が後を絶たないらしい。

 茸本さんも釣りの機会に恵まれたので、バラムツを自分で釣って食べてしまった。それは大変に美味しかったらしいのだが…このあとが大変。会社でう○ち(ほぼ脂)を漏らしてしまったのである。

 食べた翌日は休日だったのか、安心して大量のう○ち(脂)をトイレで排出した。徐々に排出が減っていったので、翌々日にはいつも通り仕事場で過ごしていた。ところがまだ腸内に脂が残っていたようで、肛門に異常を感じることなく、ふいに100ccほどのアレを垂れ流してしまったという。

肛門「何者だ!」
ワックス「ワックスです」
肛門「よし、通れ!」

 本書でこう記されているように、肛門は脂に対して大変無能な仕事ぶりを発揮したようだ。このクソめ…。

 幸い職場にいる人が少なかったため誰にも気づかれず、社会的に死ぬことは免れたそうだが、帰路に大人用おむつを購入し、それから3日間おむつ生活を強いられたそうだ。

毒キノコを食べてマーライオンに

 ワックス魚よりさらに壮絶な、まったく笑えない失敗談もある。それが食中毒を引き起こす毒キノコを食べた話だ。

 あるとき茸本さんは東京郊外の山へ「ヤマドリタケモドキ」の採取へ向かった。これは「ポルチーニ」に近縁のキノコで、大変に美味しい。しかし茸本さんは、同じく近縁の「ニガイグチ」というキノコを採取してしまった。図鑑で調べてみたところ、「多くは無毒であるものの、強烈な苦みがあり食べられない」と記載されていたそう。

野食をする、ということは極論的に言えば「自らの手で食材の命を奪う」ということです。その中で、自ずと「食材への感謝」が生まれ、食べられることのありがたみを痛感することができます。だから野食をやる人たちの多くは、「食材を無駄にしてしまう」行為に対して人一倍強い抵抗感を持っています。

「採取したものは食べる」というマイルールに従い、茸本さんはこのキノコをバターソテーにして口に運んだ。その瞬間、強烈な苦みが舌を走る。驚いて即座に吐き出し、すぐに口の中をゆすいだそうだ。

 それから30分ほど経って、茸本さんは何の前触れもなく、突然口から胃の内容物を噴射。直前まで吐き気すら感じなかったため、嘔吐の瞬間は正面を向いており、マーライオンを完コピするハメになった。なんとも笑えない話である。

本書前身の「野食ハンマープライス」は月間100万PV記録

 このように本書では、野食ハンターの活動をおもしろおかしく紹介している。本稿で取り上げた失敗談はごく一部なので、ここからは個人的に大変おもしろかった逸話をダイジェストでご紹介しよう。

◆超美味とされるウツボを釣り上げたときに油断して、手首を噛まれて盛大に血を流し、病院で処置を受けてボロボロ涙を流した(そのあと性懲りもなくワニガメをハントしている)。

◆アメリカウナギを釣り上げて友人と大はしゃぎして喜んだものの、家に帰って調理してみると工事現場のような強烈な匂いに大変後悔して、最終奥義タイの調理法を用いてなんとか食べきった(環境汚染はよくないという教訓でもある)。

◆日本中どこにでも生えている気持ち悪いキノコ「アミガサタケ」は本当に美味しく、海外で高級食材として利用されており、毒キノコと間違うような近縁種もないのでオススメ。

 話題に際限がないのでこれ以上はやめておこう。本書はおもしろい、と自信を持ってオススメできる1冊。ただし電車で読むとニヤニヤするので避けた方がよさそう。

 茸本さんは、「野食ハンマープライス」というブログを2012年に開設しており、月間100万PVを記録したそうだ。ウェブメディア「cakes」で「野食ハンターの七転八倒日記」の連載を行っており、こちらも30万PV超を叩きだしている(本書はこの連載を書籍化したもの)。

 記事の最後に、野食に興味を持った人へ注意点を伝えておこう。野食活動ではさまざまな危険生物と出会うので、油断するとケガを負いかねない。ただしこれは「予測できる危険」であり、未知の食材を食べると食中毒のほかにアレルギー反応に襲われる「予測できない危険」に遭うこともある。さらに魚介類には寄生虫のリスクもある。きちんと野食を楽しむためには、「食べたいけど、やめておこう」という理性を働かせることもとても大切なのだ。

 興味がある人は、ぜひこのリアル『トリコ』(『週刊少年ジャンプ』連載)のような本書を手に取ってほしい。野食に興味を持った人は、慎重に新しい趣味を開拓してほしいところだ。

文=いのうえゆきひろ

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February 20, 2020 at 05:02PM
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