早食いが体重増加につながるメカニズムの一端が明らかになった。食物が固体か液体かにかかわらず、咀嚼が食後のエネルギー消費量の増加を導くことが示され、「良く噛むこと」が減量に結び付く可能性があるという。早稲田大学と国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所のグループの研究によるもので、「Scientific Reports」に論文が掲載されるとともに早稲田大学のサイトにニュースリリースが掲載された。
研究の背景:食塊の大きさを考慮した研究の必要性
早食いに関連して体重が増加する可能性が示唆されている。これまでに、固体の食べ物については、食べる速さが早く、飲み込むまでの咀嚼する回数が少ないほど、体重やBMIが増加傾向になることが報告されている。
早食いが体重増加につながる理由として、(1)早食いが過食をもたらすこと、(2)早食いが食事誘発性体熱産生量(Diet-induced thermogenesis;DIT)※1を減らすこと、これらの二つが関与すると考えられている。後者の影響について検討した既報研究では、300kcalのブロック状の試験食やパスタなどの食事を良く噛んで食べると、早く食べるよりもDITが増加することを明らかにしている。ただし、その研究では飲み込む際の食塊の大きさがDITに与える影響が排除されていなかった。
そこで研究グループでは、液状の食物を用いた際でも固体の食物と同様の現象が起こるのかを検証した。また、飲料を摂取する際でも、ゆっくり味わい良く噛むことがDITの増加をもたらすか検討した。
研究の手法:飲料を口に含んでから嚥下するまでの方法を3パターンで比較
今回の研究では、まず、被験者11名(平均年齢23歳)の安静時のエネルギー消費量を測定。その後、全員に日を開けて3回ずつ異なる試行方法で、同じ飲料(20mLのコップに分けた10杯のココア味の飲料:合計200mL)を5分間で摂取してもらった(図1)。
一つ目は、飲料20mLを30秒毎に1回飲み込むことを10回繰り返すという方法(対照試行)。二つめは、飲料20mLを30秒間口に含んだ後に飲み込むことを10回繰り返すという方法(Taste試行)。三つめは、30秒間口に含んでいる間、1秒に1回噛んでから飲み込むことを10回繰り返すという方法(Chew試行)。
図1 実験の概要
(出典:早稲田大学)
各回ともに、摂取前から飲料摂取90分後まで、ガス交換変量※2を計測。その値からエネルギー消費量を算出し、DITを求めた。DITは、食後のエネルギー消費量から、食事前の安静値を引いたものとした。
研究の結果:液状の食べ物でも噛むとDITが増加する
結果は以下のとおり。
食後90分間のDITの総計は対照試行の場合、平均3.4kcalだった。味わう時間を長くしたTaste試行では平均5.6kcalであり、対照試行よりも有意に高い値を示した(図2)。これは、味わうことがDITの増加につながることを示している。
さらに、咀嚼を加えたChew試行では7.4kcalと、他二つの試行よりも有意に高い値を示した。こちらは、味わうことに加えて、咀嚼が加わるとさらにDITが増加することを示している。
図2
この結果から、固形食のみならず液状の食べ物であっても、ゆっくり味わい良く噛んで摂取することで、DITを増加させられることが明らかになった。また、飲料でも固形食と同程度のDITが得られることがわかった。
先行研究では、固形食摂取後の90分間のDIT総計は、早食いでの0.4kcal程度から、遅食いの10.4kcal程度と報告されている。液状の食べ物を摂取した今回の研究結果は、概ねこれらの数値の範囲だった。
研究の波及効果や社会的影響と今後の課題
本研究成果は、「ゆっくり味わって、良く噛んで食べること(咀嚼すること)」が食後のエネルギー消費量を増加させることの科学的論拠となる。咀嚼を基本にした減量手段の開発に役立つものとして期待される。
著者らは、「昔から『良く噛んで食べなさい。牛乳も良く噛んでから飲みなさい』などと言われてきた。これらの言葉の意義はこれまで明らかではなかったが、本研究によって、ゆっくり味わい、良く噛むことの科学的裏付けが示された」と述べている。
なお、「ゆっくり味わって、良く噛んで食べること(咀嚼すること)」がDITを増加させるメカニズムとしては、褐色脂肪細胞においてより多くのエネルギーが消費されている可能性があるという。ただし、現時点では推測の域を出ないため、「今後は、咀嚼することがエネルギー消費量を増加させるメカニズムを明らかにする研究が必要」としている。
関連情報
ゆっくり味わってよく噛んで エネルギー消費量を増加させる(早稲田大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Chewing increases postprandial diet-induced thermogenesis」。〔Sci Rep. 2021 Dec 9;11(1):23714〕
原文はこちら(Springer Nature)
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