ようやく残したわかりやすい結果
エルチェは第27節を終えた時点で降格圏ギリギリの17位に沈んでいた。そう、同15位のヘタフェにとっては残留を争うライバルである。ホセ・ボルダラス監督率いるチームは1部に生き残るためにも、本拠コリセウム・アルフォンソ・ペレスでの一戦を落とすわけにはいかなかった。
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そんな重要な一戦で、U-24日本代表メンバーに招集された久保建英はスターティングメンバーに名を連ねた。実に7試合ぶりのことである。
ヘタフェは立ち上がりからアグレッシブにボールを追い、奪ったら素早く縦に展開。ボールが地面から浮いている時間はやはり多く、ヘタフェはもちろんエルチェ側もかなり激しいため、よく主審の笛で試合が止まる。いつも通りと言えば、いつも通りのサッカーだった。
そんな中で、久保のタッチ数も相変わらず限られた。4-2-3-1におけるトップ下で先発し、前半途中にカルレス・アレニャとポジションを入れ替え右サイドに移ったが、ボールがなかなか足元に収まらない状況に大きな変化はなかった。
しかし、これまでであればそのまま沈黙してしまうことも多かったが、この日は何か違った。立ち上がりから積極的にペナルティーエリア内へ飛び込み、ボールを受ければ無難なプレーに走ることなく、勝負を仕掛けている。そう、結果を残そうという意欲が随所で見られたのである。
1点ビハインドで迎えた後半には、ホアン・モヒカとの1対1を制し利き足ではない右足でクロス。これがエネス・ウナルの貴重な同点弾に繋がっている。ボールを持って止まり、より左足を活かせるカットインを仕掛けるのではなく、細かなタッチを織り交ぜたまま縦へ突破。久保の積極性が光った場面だった。
久保は72分間のプレーとなった。データサイト『Who Scored』によるスタッツを見るとタッチ数は28回で、スタメンの中ではネマニャ・マクシモビッチに次いでワースト2位の成績となっている。それでも、ドリブル成功数1回、パス成功率92%、キーパス2本でアシスト1本、シュート数2本を記録するなど、ボールを持てばやれることはやっていた。
爆発的な活躍とまではいかないが、少ないタッチ数の中で持ち味を出し、最低限チャンスに絡めたことは久保にとってプラスになるはず。何よりアシストというわかりやすい結果を残せたことは、今後の大きな財産になるはずだ。
フル出場はならず
また、攻撃面はもちろん、この日の久保は守備面でも集中力高くプレーしていた。
ビジャレアル時代、ウナイ・エメリ監督から「タケー!」と大きな声で呼ばれ慌てて守備に戻ることがあったなど、ディフェンスの「質」という部分は久保の課題の一つだった。しかし、エルチェ戦ではボールホルダーに厳しく寄せ、押し込まれている状況ではスプリントして自陣に戻るなど、周囲の声によってではなく、自らしっかりとアクションを起こしている。後半には粘り強い守備で相手のビルドアップを封じ、ボルダラス監督に拍手を送られていた。
と、攻守で少なくない存在感を示した久保だが、見逃してはならないことが一つある。それが、途中でベンチに退いたことだ。
ヘタフェは60分、久保のアシストもあり同点に追いつくことができた。ただ、勝ち点3を得るにはまだ点が必要である。そんな中、攻撃面で違いを生めるであろう久保がベンチへ下げられた。この事実は決して軽いものではないかもしれない。
恐らく、この試合をチェックしていたほとんどの方が気になったシーンは共通している。71分の場面だ。
エルチェからボールを奪ったヘタフェはカウンターを開始。マウロ・アランバリがドリブルで敵陣深くへ運ぶが、直前にスプリントして自陣に戻っていた久保はギアを上げて同選手を追い越すことができなかった。これにより、久保が相手のマークを引きつけられず、アランバリは1対2の状況を作られた。そして、このカウンターは不発に終わっている。
このシーンの直後、ボルダラス監督は久保に視線を向けベンチに戻った。そして1分後、背番号5はベンチに下がっている。上記したシーンがまったく途中交代に影響していないとは言い切れない。
左サイドのマルク・ククレジャのように、サイドでの上下動を繰り返すことができるスタミナが、久保にはまだ備わっていない。もちろんククレジャのレベルが標準というわけではないが、ヘタフェでプレータイムを伸ばすにはこのあたりの質も伸ばさなければならない。結果を残してもなお、ということは、この試合で明らかになったと言えるだろう。非常に厳しいミッションである。
ただ、繰り返しになるが、ここで目に見える結果を残せたことは何よりである。これで久保に吹く向かい風は少し弱まったかもしれない。ここから一旦U-24日本代表に合流ということになるが、代表ウィーク終了後に再び輝けるか注目だ。
(文:小澤祐作)
【了】
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