Wednesday, July 15, 2020

災害関連死防いだ「食べる」支援 医師が語る“最強の備え” - 西日本新聞

被災地での歯科保健活動 (下)

 東日本大震災の被災地で歯科保健活動に携わりながらも、想定外の事態が続き不完全燃焼に終わった「おおた歯科クリニック」(福岡県太宰府市)院長の歯科医師、太田秀人さん(51)。だが、そこで得た貴重な教訓は、その後の熊本地震、九州豪雨の被災地で生かされることになった。

 震災支援で宮城県南三陸町に出向き、クリニックを1週間休診した太田さん。患者やスタッフに迷惑をかけ、減収もこたえた。それでも「また次に何かあれば行く」と決めたのは、支援に入った介護施設で後日、肺炎で尊い命が失われたのを後悔していたから。災害関連死を防げなかった-。

 南三陸町を離れる時、被災者に「将来のことは誰にも分からない。今回、支援に来てくださった皆さんの地元でも備えておいてください」と声を掛けられた。以後、その言葉を胸に、東京などで開かれる災害研修に自費で参加するなど、準備を積み重ねていた。

 2016年4月14日、熊本地震が発生した。9日後には歯科保健医療チームのリーダーとして、熊本県の南阿蘇地区(南阿蘇村と高森町)に入り、計2週間活動した。

 地元歯科医師会やJMAT(日本医師会災害医療チーム)、保健師、管理栄養士、言語聴覚士など多職種の同志と協力。避難所や介護施設、在宅などの高齢者、障害者、妊婦など災害時要配慮者約2300人を対象に、口腔(こうくう)ケアや歯科治療をはじめ、むせずに飲み込めるかなどを指導する「食べる」支援に携わった。

 歯科では、東日本大震災の際、被災者の状況を把握する調査票の様式がバラバラだった反省から、統一評価票が導入されていた。「おかげで熊本では、支援チームが入れ替わりながらも、刻々と変わる現場のニーズに的確に対応できた」

 こうして支援チームから地元関係者への引き継ぎも円滑に進み、南阿蘇地区での肺炎による災害関連死はゼロに抑えられた。

「まだ撤退しないで」

 17年7月の九州豪雨でも太田さんはすぐに現地へ。福岡県朝倉地区(朝倉市と東峰村)の15避難所(約1500人)などを対象に、災害歯科コーディネーターとして自治体や歯科医師会、JMATなどと歯科保健活動に取り組んだ。

 発災から2週間後。JMATなどが区切りを付けて撤収を決めた会議の後、太田さんは朝倉市と東峰村の保健師から呼び止められた。「歯科さんは、まだ撤退しないでほしい。住民のために口腔ケアの啓発が必要なんです」

 治療は医療者しかできないが、予防はやる気さえあれば資格無しでもできる。歯科衛生士を中心とした口腔ケア啓発活動は、歯科チームから被災地への贈り物。保健師2人の言葉は、歯科の重要性が今後さらに増すという認識が関係者に浸透した証しと言えた。

 歯科チームは治療だけでなく、保健師や管理栄養士などと一緒に全身の健康支援活動を展開。その一つが熱中症対策の支援物資として届けられたスポーツドリンクなど飲料の糖分が招きがちな、虫歯や肥満の増加を防ぐ啓発。結果、朝倉市と東峰村でも肺炎による災害関連死は出なかった。

避難袋に歯ブラシを

 今年の梅雨も九州は、また豪雨に襲われた。太田さんは過去3度の被災地支援体験を踏まえ「口は命の入り口だが、避難生活でケアを怠れば、肺炎などにつながる病の入り口になる恐れがある。避難袋にはぜひ歯ブラシを1本、入れておいて」と助言する。

 歯が悪くても平常時なら軟らかい食べ物で対処できるが、緊急時は、そうはいかないことが多い。避難所などで、出された食事をとれない人から衰弱し、重症化したという報告もある。

 「生き延びた後は、食べることが生きること」と語る太田さん。「日頃から何でもかんで食べられる歯や義歯の状態を保つことは、非常時への最強の備え。半年に1度、定期的にかかりつけの歯科医院に通い、不調が顕在化する前にチェックしておいてください。口の中に“想定外”があってはいけません」 (佐藤弘)

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July 15, 2020 at 01:03PM
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