渓流沿いのような湿った木陰で、春に花を咲かせる植物にチャルメルソウの仲間がある。緑色や褐色を帯びた小さな花は地味で、春の野草の中でも知名度は決して高くないだろう。果実の形が、木管楽器のチャルメルに似ていることから、こんな名前が付いたという。これまでに13種が知られるが、そのほとんどが日本に固有で、日本列島の中で種の分化を繰り返したとみられている。とはいえ、決して珍しい植物ではなく、比較的広く分布するチャルメルソウやコチャルメルソウなら、出合うこともそんなに難しくはない。
その仲間の花を訪れて花粉の受け渡しをするのは、これまた地味なキノコバエの仲間である。そして、そんなキノコバエを支えるためにコケの存在が欠かせないとわかってきたのは、つい最近のことだ。森の中で営まれている、植物と昆虫のふしぎな3者関係を紹介してみよう。
チャルメルソウの花粉媒介者は誰か?
この関係を解き明かしたのは国立科学博物館植物研究部の奥山雄大研究主幹(39)だ。そもそも、奥山さんが大学生になったころ、まだチャルメルソウの仲間の花粉を何が運んでいるのかは分かっていなかった。大学演習林での観察をもとに、4年生の時にキノコバエの仲間がその役割を担っていることを突き止めたのが最初の研究成果だそうだ。
以来、チャルメルソウなどを材料に植物と昆虫の関係を調べ、新しい種が進化するしくみなどについて研究してきた。5年前には、チャルメルソウの仲間の花が発する匂いに対する好みの違いで、花にやってくるキノコバエの種類が変わり、それが種の分化を引き起こしている原動力の一つであることを森林総合研究所や京都大学との共同研究で突き止めた。また。チャルメルソウの仲間では約半世紀ぶりの新種となった、奄美大島産のアマミチャルメルソウを発表したのは4年前のことだ。リストになかった見慣れたキノコバエ
さて、こうしたチャルメルソウの仲間の繁殖に欠かせない存在であるキノコバエという昆虫のグループは、そもそもキノコに卵を産んで幼虫がキノコを食べて育つものが多いことから、こう呼ばれるようになった。だからキノコ栽培の世界でキノコバエは害虫であり、それなりに研究は進んでいた。
ところが「キノコに来るキノコバエの仲間のリストがあったが、チャルメルソウに来るキノコバエは、そこに載っていなかった」。だとすると、キノコを食べないキノコバエらしい、と奥山さんは気付いた。十数年前の話だが、その時点では何を食べているのか、はっきりしなかったのだ。
では、チャルメルソウに来るキノコバエがどこへ行って産卵するのかを、追跡して明らかにするしかない。奥山さんによると、森の中でチャルメルソウの花を観察していれば、キノコバエは頻繁にやってくるそうだ。キノコバエの目的は花が出す蜜なのだが、その時に口や頭の付近に花粉がくっつき、ふらふらと飛んで次にとまった花で受粉が起こる。そして、ずっと見ていると、近くのチョウチンゴケ類(蘚類)の上にとまることがあり、ついには雌が腹部を曲げて卵を産む姿も目撃できた。
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May 18, 2020 at 08:12AM
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キノコを食べないキノコバエは何を食べるのか? - 米山正寛|論座 - 朝日新聞社の言論サイト - 論座
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