特例貸付の最終回となる今回は、前回「特例貸付に足りなかったもの」に引き続いて三芳町社会福祉協議会(社協)の取組を紹介していく。 前回は、三芳町社協が訪れた相談者に提供する「あったか食事パック」の支援内容と、独自の支援が可能となった理由を説明してきた。企画者である古賀和美さん(58歳)は、あったか食事パックの商品を有名ブランドにすることにこだわっていると言う。「私も食べたことのないものばかりです」と笑う古賀さんは、ある少年とのエピソードを話してくれた。 あったか食事パックが始まる前にも、三芳町社協では、相談者に食料支援を行っていた。独自の予算措置がある訳ではない。提供していたのは、行政や企業が災害時に備えて備蓄していた保存食である。 災害備蓄品は賞味期限が迫ると廃棄され、新しいものに交換される。交換はある程度の時間的余裕をもつため、廃棄時にはまだ賞味期限になっていないものもある。これらを譲り受けてストックし、相談者に配るのである。 写真はクッキーだが、ほかに乾パンや缶詰、アルファ米などもある。災害備蓄品を食料支援として手渡しているのは、三芳町社協だけでない。社協や福祉事務所といった生活困窮者の支援を行う相談機関では、今も日常的に見られる光景である。最近の災害備蓄品のなかには、日常食として食べることも想定し、味覚や食感にこだわったものも用意されている。また、食品ロスへの理解が広まることで、企業も災害備蓄品の再活用に知恵を絞る例も出てきている。この点に関しては改めて取り上げたい。 古賀さんは、「災害備蓄品を提供することに心苦しさを感じていたが、どうすればいいかわからなかった」と当時を振り返る。もやもやとした気持ちを抱えて仕事をするなかで、古賀さんは一人の少年と出会うことになる。
社協職員として持った決意
「社協がやっている夜の学習支援の時のことです。参加した子が災害備蓄品の缶詰を取り出したのです。他には何もありません。缶詰だけです。母親から、『晩御飯だから』と渡されたというのです。その子は、缶詰を温めることもせず、そのまま食べていました」 古賀さんは、当時のことを思い出すように言葉を絞り出した。 ――その缶詰は、昼間、社協に相談に来た母親に渡したものでした。 「母親は、どんな気持ちで、その子に缶詰を渡したのだろうと考えました。もしかしたら、ほんの軽い気持ちで渡したのかもしれない。他に渡すものがなくて、どうしようもなくて渡したのかもしれない。実際どうなのかは、わかりません。でも、こう思ったのです。『災害備蓄品を渡すのはダメだ。災害備蓄品は災害備蓄品として提供されるべきであり、常食として提供される物ではない』」 考えてみれば当たり前のことだが、ひとり親家庭には必ず子どもがいる。しかし、相談窓口の職員は、ともすればそのことを忘れがちである。相談窓口に子どもたちが来ることは、めったにないからである。人間、目の当たりにして初めて実感できることがある。古賀さんにとって、缶詰を食べる少年はそれまでの支援を見直すきっかけとなった。 「あったか食事パックを始めるときに、どんな商品だったら喜んでもらえるだろうと考えました。段ボールを開けたときに、『わあ、これ食べたことない』と驚いてほしい。たとえ数日であったとしても、『よかったね。美味しいね』とご飯を食べてほしい。そう考えながら、強いこだわりを持ってスーパーで商品を選びました」 貸付を担当する小林さんは、あったか食事パックを渡すとき、明らかに相談者の表情が変わるという。「厳しい表情をしていた人が、柔らかい表情に変わる。警戒していた人も、事情を詳しく話してくれるし、こちらの話も聞いてくれるようになる」
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