Saturday, December 4, 2021

ゲノム編集食品(前編) 新技術、食べる?食べない? - 中日新聞

makanresto.blogspot.com

 生物の設計図である遺伝子を改変するゲノム編集。このバイオテクノロジーを使って生まれた食品が、この秋、相次いで国内で市販化された。九月にリラックス成分の「GABA」を多く含むトマトが。続いて魚介類では、少ない餌で効率的に成長させたマダイやトラフグの販売も始まった。従来の品種改良よりも短い期間で優れた性質の生物を生み出せる一方、食品としての安全性や生態系への影響を不安視する声も根強い。そんなゲノム編集食品。あなたは食べたい? 食べたくない?

 (宮崎厚志)

数年で品種改良

 「世界初! ゲノム編集技術を利用して開発された『22世紀鯛』を多くの人に届けたい!」。九月中旬、こう題されたクラウドファンディング(CF)が注目を集めた。企画者はリージョナルフィッシュ株式会社。京都大と近畿大による研究成果を元に設立されたベンチャー企業だ。このCFではマダイの肉約二百グラムを含む料理セットで一万円と高額ながら、目標額の三倍以上を売り上げた。

 同社によると、ゲノム編集による動物食品の一般への販売は世界初。このマダイは、筋肉の成長を止める物質を作る遺伝子のみを切った。すると従来の養殖マダイと比べ、少ない餌の量で最大で一・六倍まで太った。食感は柔らかく、味は天然物にも劣らないという。続いて発表したトラフグは、食欲を抑える遺伝子を切ることで、従来の一・九倍の早さで成長。養殖業で最もコストがかかる餌の量を42%削減した。

ゲノム編集によるマダイやトラフグを研究・販売するリージョナルフィッシュ社の梅川忠典社長=京都市の京都大構内にある研究施設で

ゲノム編集によるマダイやトラフグを研究・販売するリージョナルフィッシュ社の梅川忠典社長=京都市の京都大構内にある研究施設で

 植物でも動物でも、通常の品種改良は世代を重ねながら優れた個体を選抜していくため、新たな種が流通するまで十年単位の時間がかかる。しかし同社は四年で新種を世に送り出した。同時にゲノム編集魚が外海に出ないよう、養殖用の水槽を海と隔てる「陸上養殖」の技術も確立。梅川忠典社長(35)は「生態系に影響を与えるリスクはほぼゼロにできる」と言い切る。

水産業の救世主

 生産効率の高い魚の養殖技術は、世界的にも関心を集める。近い将来、人口増加による深刻なタンパク質不足が予想されているからだ。一方で日本の水産業は衰退の一途。漁業従事者はこの十七年間で十万人以上も減少した。梅川さんは「養殖をもうかる産業にすることで、日本の水産業を救いたい」と力を込める。

 政府はゲノム編集を経済成長戦略の一つと位置付ける。農林水産省は研究を推進し、厚生労働省は食品としての販売に審査を必要とせず、消費者庁は表示を義務付けない。

 ただ、現状では遺伝子組み換えとの違いが広く認識されておらず、食品として積み重ねられるべき信頼が追いついていない。同社は国への届け出や表示をするほか、反対派からの質問状にも丁寧な回答に努めるが、「よく分からないものを食べるのは怖い」という一般消費者の感覚は、やはり高いハードルだ。

「遺伝子組み換え」と異なる手法

 ゲノム編集を理解するうえで重要な点が、「遺伝子組み換え」との違いだ。遺伝子組み換えは、既存の遺伝子に別の生物の遺伝子を加えることにより、自然界では誕生することのない新しい生物を生み出す技術。特定の除草剤に強い大豆や害虫に強いトウモロコシなど、生産効率を高めるために、米国や南米の大規模農業で導入されている。日本では食品としての安全性、環境への影響ともに懸念が拭われておらず、厳しい規制がある。

 一方、外来遺伝子を加えないタイプのゲノム編集は、既存の遺伝子を切ることで、自然界でも起こり得る突然変異を人工的に引き起こすもの。狙いとは異なる「オフターゲット変異」が起きる可能性はゼロではないが、食品としての安全性は従来の品種改良と変わらないとされる。販売にあたって国は、事前の届け出や食品表示を義務化していない。

 ゲノム編集 生命の設計図といえる遺伝子情報(ゲノム)を自在に改変する技術。2012年に「クリスパー・キャス9」というDNA切断酵素を使って遺伝子の中の狙った部分を切る技術が発表され、食品生産や医療など、さまざまな分野で応用する研究が飛躍した。考案者は20年のノーベル化学賞を受賞。一方、安全面、倫理面や生態系への影響の議論は尽くされてなく、人への適用も含めて明確な法規制はない。


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