Thursday, May 11, 2023

年700杯ラーメンを食べる私 「好き」を超えた境地で麺と歩む人生:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル

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 外食の王者・ラーメン。一昔前は気楽なB級グルメの代表格でしたが、今や繊細な味を堪能できる創作的料理になり、人気店の行列には女性や外国人観光客の姿も。ラーメンに一体、何が起きたのか。年700杯のペースで食べ歩くという愛好家で、ラーメンの進化と共に年輪を刻んできた、「ラーメン官僚」の通称でも知られる田中一明さんに聞きました。

 ――「ラーメン超進化論」という著書があります。ラーメンは「超」がつくほど進化した、と。

 「しょうゆやみそ、塩といったタレが違うだけで、誰が作ってもおおむね同じ味。お酒を飲んだ後に『締め』で食べるような、安いB級グルメ。ラーメンは、こんなイメージだったと思います。今でも、日本にある約3万5千のラーメン店の多くは、そうかもしれません」

 「ところがこの30年ぐらいの間に、人並み外れた情熱を注ぎ、試行錯誤の末にオリジナリティーあふれる独自のラーメンを作り出す店が数多く生まれました。そうした店は不断のブラッシュアップを通じ、どんどん味を進化させていきます。そのスケールとスピードは『超』をつけたくなるほどです」

 ――ラーメン店が、店を格付け・評価する「ミシュランガイド」の対象になったことも大きかったのでしょうか。

 「2015年の冬に発売された『ミシュランガイド東京2016』では、巣鴨の『Japanese Soba Noodles 蔦(つた)』が一つ星を獲得しました。権威あるガイドブックが、一ラーメン店に、フランス料理やイタリア料理、和食と並んで『その分野で特においしい料理』と評価したわけです。発表翌朝から6時間待ちの行列ができたことは語り草ですが、この星がラーメン業界全体に与えたインパクトは計り知れないものでした」

 「ただ、ミシュランはきっかけではなく、ラーメンの進化の『結果』のひとつだったのではないでしょうか。私は、ラーメンの進化の大きなきっかけは1996年にあると考えています」

 ――96年ですか。

 「ええ。90年代まで、ラーメン店はおおむね豚骨や鶏ガラを長時間炊きあげてスープをつくっていました。それがはっきり変わったのが96年です。後に『96年組』といわれる『中華そば青葉』『麺屋武蔵』『らーめんくじら軒』の3店が首都圏にオープンし、斬新な発想のラーメンを生み出しました」

 ――斬新というのは?

Wスープという斬新な発想

 「スープの作り方です。かつおや煮干しなどから取った魚介系スープと、豚骨や鶏ガラなどの動物系スープを異なる寸胴(ずんどう)でつくり、食べる直前に合わせる『W(ダブル)スープ』という手法を生み出し、知らしめたのが『中華そば青葉』でした。いまではWスープは一般的なので、どれほど画期的だったかは想像しにくいのですが」

 「また、当たり前のようにスープづくりに使われていた『うまみ調理料』を封印し、サンマ節からスープを取って、その後の創作ラーメンの原型を示したのが『麺屋武蔵』でした。底が透けて見えるほど透明で、コクが豊かなスープを開発し、日本酒の口当たりを指す『淡麗』という言葉で表現されるラーメンを作り出したのが『らーめんくじら軒』でした。『96年以前』と『96年以後』と分けられるほど、この年が画期になって、以後ラーメンの多様化の時代が始まりました」

 ――その3店には当時、行列ができました。

 「ラーメン好きな50代前後の方なら、90年代前半の『環7ラーメン戦争』を知っていると思います。当時、東京都内の環状7号線沿いに豚骨ラーメンを中心とした店が次々に開店し、立ち並んでいたのです。ここに押し寄せていたラーメン好きが、96年には3店に集まったのだと思います」

 「3店の店主は、自分が理想とするラーメンを創作することへの徹底的なこだわり、流行やブームに全く左右されない強さがありました。こうした資質をもつ店主たちがその後数多く現れ、素材や調理の手法を独自に編み出す『創作ラーメン』ブームにつながっていったのです」

 「この人は1日24時間、ラーメン以外のことを考える時間があるのかと思うほど、味追求に没頭している店主もいます。自分の味に少しでも疑問がうまれると、彼らはすぐ味を変えてしまいます」

 ――今もそういうタイプの店主がトレンドを牽引(けんいん)しているのですか。

「年700杯」はノルマを課した結果ではない、もはや自分がラーメン好きかどうかも分からない、と語る田中さん。それは一体、どんな境地なのでしょうか。ラーメン進化論に続いて、後半で熱く語ります。

 「2000年代までは、脱サ…

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