コーヒーダストバーの「エクスペリエンス」には、ベアポンドで提供されるエスプレッソと、まったく同じ材料が使われている──コーヒー豆と水、ミルク、そして少量の砂糖だ。カカオ豆は使用していない。
「エクスペリエンス」の誕生のきっかけは、米国のブティックホテルチェーンが2018年、田中に提携を持ち声をかけたことだった。オープン予定のホテルに、カフェを開業しないかという誘いを受けたという。
パートナーを組むことに決め、いくつもの“ワイルドでエキサイティング”なアイデアについて話し合ったという田中とそのホテルチェーンだが、不運にも新型コロナウイルスの大流行によって、そのプロジェクトは吹き飛んだ。そして残されたのが、「食べられるコーヒー」のアイデアだ。
田中は、「持ち歩くことができる、ソリッドなコーヒーバーを作ろうと決めた」。名刺のようにポケットから取り出すことができ、それで彼のスタイルのコーヒーを味わってもらえるように。
レトロシックな包装紙に包まれた四角く薄い、ダークカラーのバーは、まるでチョコレートのようだ。だが、口に入れると感じられるのは、独特のザラつきとスモーキーな香り、そして深いエスプレッソの味わいだ。
滑らかで柔らかい口当たりのチョコレートバーにあまりも慣らされているため、「ザラザラした質感が嫌だという人もいるだろう」と話す田中だが、それこそが、コーヒーダストバーの特徴だと説明する。
「誰もが好む味なら、つまりそれはごく普通の製品だということ。僕は何か新しい、一握りの人の記憶に残るものを作りたかった」
コーヒーの世界に「リップル」起こす
田中はこうしたメインストリームから外れた取り組みを、「リップル(波紋、さざ波)」と表現する。最終的にパラダイムを変えることになる大きな波(ウェーブ)を作り出すのは、いくつものリップルだという。
「ウェーブ」とは、コーヒー業界におけるムーブメントのことだ。田中によれば、最初のウェーブは、商品としてのコーヒーが広まった1960年に起きた。第2のウェーブではスターバックスのような店を通じて、スペシャルティコーヒーが普及した。そして現在起きているのが、「職人が作るコーヒー」によるサードウェーブだ。
次に来るのは、どんなウェーブだろう?それは、誰にも分らないという。これまでに起きたどのウェーブも、数多くの小さなリップルが集まり、一つになった結果として、生まれたものだからだ。
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