京都は黄檗宗萬福寺の普茶料理。ヴィーガンと称していなくても、日本や中国の精進料理、素食は肉のみならず、乳製品も使わぬものが多い。
ヴィーガンに流行の兆しがあるらしい。そして、それと同時に昆虫食であったり、ジビエだったりもまた注目されている。
対極の動きのように思われるかもしれない。が、同根のようにも思われる。何故か?
人は雑食である。
そして、偏食である。
理屈では、どこの国、地域に住むものであろうと、同じ人間であれば、食べられるものは同じである、はず。しかし、民族により、宗教により、あるいは主義主張により、食べるもの、食べられるものは異なる。
クジラが日本以外の多くの国で、食べるものではないように。ヒンドゥー教徒にとって、聖なる牛が、イスラム教徒にとって、汚れた豚が、食べるものではないように。
様々な区分が可能だが、特に大きくわけられるのが、肉食をするかどうか、である。ただ、菜食=ヴェジタリアンには、レベルがある。魚は食べるとか、卵は食べるとか、乳製品までは食べるとか。魚は言うまでもなく、卵も乳製品も食べないとか。そのもっとも厳格なグループをヴィーガンというわけだ。
広辞苑では最新版でも記載はないが、デジタル版の大辞泉に以下のようにあった。
ヴィーガン(vegan)=ベジタリアン(菜食主義者)のうち、畜肉・鶏肉・魚介類などの肉類に加え、卵や乳・チーズ・ラードなど動物由来の食品を一切とらない人。ピュアヴェジタリアン。
うーん。辞書の定義としては、どうだろう。行為としてはその通りかもしれないが、さて、本人たちが納得してくれるかどうか。
英国ヴィーガン協会の定義、「Veganismとは、可能な限り食べ物・衣服・その他の目的のために、あらゆる形態の動物への残虐行為、動物の搾取を取り入れないようにする生き方」のように、生き方の問題でもあるからだ。
「君が何を食べるか言ってみたまえ。君が何者であるかを言い当てよう」。ブリア=サヴァランの『美味礼讃』の有名な言葉である。この言葉と、「You are what you eat」、つまり、「あなたは、あなたが食べるもの」という言葉は重なる(元々、イギリスの保険会社だかのコピーらしいが、ことわざのように広まっている)。
結局は食べたもので自分の体が出来ているのは自覚しているから、妙なものは取り入れたくない(あるいは恐れ多い)、というあたりに帰着するのではないか。
特に「食べるために殺さない」という思想。インドのジャイナ教、ヒンドゥー教等でたどっていけるが、それだけではない。中国の素食、素菜、日本の精進等もその流れであるし、西洋でも古くから、脈々と存在していた。
現在のヴィーガンの興隆のきっかけは、20世紀後半、ローマ・クラブの「成長の限界」という発表か。つまり、人口の爆発的増加、食糧生産の限界、環境問題等々が言われるようになったあたりだろう。動物の福祉といわれ、肉食への疑義がいわれるようになる。その代表がオーストラリアの哲学者、ピーター・シンガーの『動物の解放』あたり。
詳しく説明しないと、理解していただけないような話なのだが、この短い原稿ではいささか難しい。とにかく、人が食べるということを真摯に、哲学して、ヴィーガンという食の選択肢があるということだ。それを選ぶ人々がいて、それなりに広がりを見せている。
生き方の問題であるが、もちろん、徹するのでなく、たまにヴィーガンの食を……というのも、選択肢であり得るだろう。
ところで。最初にヴィーガンも昆虫食やジビエ食も繋がっているのではと述べた。環境に負荷をかけない食、という発想は同じでも、害獣として、殺されるだけでなく、ちゃんと食べて成仏してもらうという、選択肢もあるのではないかということだ。植物食、特に豆類のように、エネルギー効率のよいタンパク源である昆虫を食するという発想も同じ。
世界中に十数億頭の牛や羊がいる。中東地域の野生動物が、人間に仲間の一部や乳などを差し出す代わりに、保護してもらうという「契約」をして、世界でその繁栄を遂げた。
穀物など育てられない地域で、人が食べられない草を食べて……という時代は合理的な選択だったろうと思う。しかし、現在の十数億頭という数は、かつてのジャングルを切り開いたりしての環境破壊の上に成立している。その莫大な数の牛のゲップが、冗談ではなく、温暖化の問題ともなっている。
吉良竜夫という農学者の「地球のヒトの定員」という論文に、こんな記述を見つけた。
「世界の耕作可能面積が37億ha。全て穀物にしたら、370億人が生きていける。全て牛に食べさせ、ミルクにしたら、148億人。豚に喰わせて肉にしたら、55億人。牛に喰わせて肉にしたら、12億人」
温暖化問題だけではなく、さて、私たちはどう生きるか。何を食べるか……。
もりえだたかし
写真家、ジャーナリスト
1955年、熊本県生まれ。大正大学客員教授。水俣病の取材に訪れたユージン・スミスに出会い、ジャーナリストを志す。東南アジアを中心に取材し、食にまつわる著作多数。著書に『食べもの記』(福音館書店)、『アジア菜食紀行』(講談社現代新書)、『カレーライスと日本人』(講談社学術文庫)、『食べているのは生きものだ』(福音館の科学シリーズ)などがある。「週刊ヤングジャンプ」に掲載されていた『華麗なる食卓』(集英社)では、食文化研究家として監修を務めた。
Words & Photo 森枝卓士 Takashi Morieda
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April 26, 2020 at 06:15PM
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「ヴィーガン」という思想──私たちはどう生きるか。何を食べるか。 - GQ JAPAN
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