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スープの色は真っ黄色。
友達のそのまた友達が小笠原のウミガメ漁師と知り合いであるという話を聞いた。夏の終わり頃のことである。私はかねてより一度ウミガメを食べてみたいと思っていたので、さっそく頼み込んで連絡先を教えてもらった。
電話に出たウミガメ漁師は気さくな人で、お金さえ払えばウミガメの肉を送ってくれるというではないか。これはすごい。こんなにあっさり夢が叶ってしまってよいものだろうか?大喜びでお願いすることにした。
漁師はいろいろなレシピを教えてくれたけれど、やっぱり一番気になるメニューは有名な水平思考クイズに登場するウミガメのスープだ。
ウミガメ、届く
ウミガメをとって食べる習慣はかつては日本各地にあったそうなのだが、今でも続いているのは小笠原諸島だけだ。この地域では戦前からアオウミガメの孵化養殖と放流に取り組んでいて、その甲斐あっていっときは減少した生息数も現在では安定しているという。気兼ねなく食べられるのはありがたい。
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日本近海で見ることのできるウミガメは何種類かいる。珍しすぎて発見されただけでニュースになるオサガメなどは論外として、他のウミガメは食用にしないのだろうか?
そう思って漁師に聞いてみたところ
「アカウミガメは肉が臭い。タイマイ(鼈甲の素材になるウミガメ)は肉に毒があって、南太平洋では毎年のようにこれを食べて死ぬ人がいる。だから小笠原では昔からアオウミガメだけを食用にしている」
と教えてくれた。
つまり臭みも毒もなかったアオウミガメだけが捕食され続けているのである。正直者がバカを見るとはまさにこのことだ。
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ここには入っていないが、アオウミガメのレバーもたいへん美味しくて食べ応えがあるという。ただ、一度でも冷凍してしまうと凄まじく苦くなるから島の外には出せないそうだ。
「いまどき産地まで行かないと食べられない珍味があるのだなあ」
などと電話口で感心していると、漁師は気をよくしたのか
「気に入ったら、ウミガメ漁のシーズンに遊びに来てよ。レバーも食べてもらえるしカメの解体にも参加させてあげる」
と言ってきた。
ウミガメの解体!なんと素敵なお誘いだろう。
剥がした甲羅をかついで「亀仙人!」などといってはしゃぐ自分を想像して恍惚としていた私の頭に漁師が発した次の一言が冷水をぶっかけた。
「定期船が週に一回しか来ないから、最低でも1週間はいてもらわないといけないけどね!」
なかなかハードルは高そうだが、いつか実現したいものである。
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胸肉は刺身とローストに
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届けられたウミガメの肉には、重厚な手書きレシピが添えられていた。今回はこれを参考に調理していくことにする。
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斬新な略字に興奮しつつビニールを切って中の肉を取り出す。
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ビニールから取り出された胸肉はきれいなピンク色をしていて、美味しそうだが見た目は普通だった。
「青海亀肉」と漢字で書くとなんだか不老不死の霊薬みたいないかつさがあるが、別に七色に光っていたりはしないのだ。
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煮込み用の肉はいろいろな部位の詰め合わせ
刺身とローストを早々に作り上げた我々は、続いて目玉料理であるウミガメのスープに取り掛かることにした。
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見た目は普通だった胸肉と違って、煮込み用と称された肉のパックにはウミガメの体のいろいろな部位がぶつ切りにされて入っており、七色にこそ光っていないものの表皮(黒)、脂肪(黄色、青緑色)、筋肉(赤色、肌色)が混じり合って抽象画を見ているような気分になった。
中の方はまだ凍っていたが時間がないので手で解きほぐしていくことに。
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レシピには酒を少しだけ入れて加熱すると肉から出てきた水分と合わさっていい感じの煮物になると描かれていたが、今回はスープにしたかったので適当に水を足して煮込むことに。
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まこっちゃんは一口飲んで
「うーん、カメの味ですね」
と言っていた。
私も飲んでみた。
「うーん、カメの味だ」
と思った。
もう少し丁寧に解説しよう。
煮始めてからさほど時間がたっていないのにすでにコクのある脂と旨味成分がべらぼうに放出されていた。そして、その脂と旨味の嵐の向こう側に、カメの風味があるのだ。カメの風味と言われても想像がつかないと思うが、カメの風味としか説明できないのだからどうしようもない。スッポンを食べたことがある人なら、あれに近いといえばわかってもらえるだろうか。
「煮込めば煮込むほどに美味しくなるに違いない」と無邪気に信じて最低でも1時間くらいは煮込むつもりだった我々は、加熱しはじめてからたった10分ほどでこの濃厚な味を突きつけてきた鍋を前に恐れおののいたのだった。
からの記事と詳細 ( あの「ウミガメのスープ」を食べる。ついでにウミガメフルコースも食べる - デイリーポータルZ )
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