#1「愛されたことがないから、人を愛する気持ちがわからない」親の虐待が人生に及ぼす影響の大きさを遠野なぎこさんに聞く
過食嘔吐を繰り返すのは「心の隙間を埋めるため」
――遠野さんは15歳の時に摂食障害になって、本も出されていますよね(『摂食障害。食べて、吐いて、死にたくて。』ブックマン社 刊/2014年)。摂食障害とはどのような病気なのでしょうか。
遠野なぎこ(以下、遠野) いくつか種類がありまして、大きく分けると、過食嘔吐や拒食症、吐けない過食、チューイングという口に入れたものをそのまま出すなどの症状があります。私は専門家ではないのではっきりとは言えませんけど、大体の人は拒食症から始まって、そこから過食嘔吐になったり、過食になったりと、スイッチが切り替わる。自分で切り替えるのではなく、勝手にパチン、と切り替わっちゃうんですよ。
――過食嘔吐というのは?
遠野 お腹がもうボーンって膨らむまで食べて、詰め込むんです。そして、トイレに駆け込んで、指を突っ込んで、全部吐く。私は、最多だと1日5回繰り返してしまいます。
こうすることで心の隙間を埋めようとしているんです。
苦しいし、顔もパンパンに腫れるし、本当に嫌で嫌でしょうがない。虚しくて、涙が出てくる。悪魔に取りつかれたかのような病気ですね。
――遠野さんの現在のご状況は?
遠野 15歳の時から43歳の現在まで、ずっと続いてます。今は、過食嘔吐の時期と拒食がちょっと混ざってる時期に入ってますね。私が今までの摂食障害でかかったお金を考えたら、東京都内の一等地に”遠野御殿”が建つと思いますよ。とにかく食べられるだけ食べるわけですから、たくさんの食費がかかります。1日1万円として、年間365万円×28年間、つまり1億220万円……それがトイレに流れていってるんですよ…。
食べるものは”吐きやすさ”がすべて
――遠野さんはどのようなものを食べるんですか?
遠野 吐きやすさで食べるものを決めます。吐きやすい順番とかがあるから、そういうものも考慮して。固形物やすごく硬いものなど、吐きにくいものは買わない。本当に虚しさしかない作業です。
――苦しい思いをしても、また食べてしまう。
遠野 お腹が空いて食べるんじゃなくて、もう食べたくないんです。なのに、また「やれ」と悪魔のささやきが聞こえる感覚がある。東日本大震災のとき、あの揺れの最中ですら、過食嘔吐を止められなかったんです。揺れている中で、食べて、食べて、食べて、食べて、泣きながら、地震の恐怖と同時に「自分は何をやってるんだろう」と思いながら、吐いてたんです。
たくさんの人が亡くなっている中、不謹慎なことを言ってるのだとはわかっているのですが……それだけ自分の意志ではどうにもならない病気だということをわかっていただきたくて、今、お話ししました。
――摂食障害の辛いところは?
遠野 日常が普通じゃない。食を楽しめないですもん。友人と食事をして「おいしいね」と言い合う、そのやり取りがどれだけ幸せに思えるか。涙が出そうになります。いいなって思います。普通になりたい、私も。
――摂食障害になったきっかけは?
遠野 母でした。私が15歳の時、思春期で少し体がふっくらしてきた時期に「食べて吐けば太らないのよ」って。どういうふうに吐けばいいかも教えられました。そこから止まらなくなってしまって。20代ぐらいになって、母も摂食障害だったんだと知りました。ある日、お風呂で吐いてるのに気付いて「ああ、母が私を巻き込んだんだ」と。
――吐き方以外に、お母さんから教えられたことは?
遠野 下剤の飲み方。「飲めば痩せる」って言われて。昔は1日に1回あたり、何十錠も飲んでましたね。20代ぐらいまでかな。母は、私が痩せると喜ぶんですよね。
――摂食障害になる原因の多くは、心理面が大きいのでしょうか。
遠野 本来はそうですね。絶対ではないですが、お母さんとの関係でなる方もすごく多いです。直接的な理由が、ダイエットや失恋とかでも、たどっていくと、お母さんとの関係が根深くあるというのはよく聞くお話ですね。
「痩せたね」は褒め言葉じゃなく、症状悪化のトリガー
――摂食障害って、治るものなのでしょうか。
遠野 絶対とは言いませんけど、この病気は一生治らないんじゃないかなと思ってます。
完治したと思っても、何かのきっかけでスイッチが入ってしまう人もいます。常に爆弾を抱えているようなもの。私も、恋愛など何か支えができたりするとぴたっと治まるときもあります。それでも、ストレスが溜まったりすると再発してしまうんです。
――どういうときに症状が悪化するんですか?
遠野 ストレスになることが起きたときとか、外見のこと言われたときですかね。「太ったね」も「痩せたね」も、どっちも刺激になってしまう。特に異性は、あいさつ代わりに言ったりするじゃないですか。相手は何とも思っていないひと言でも、私にはグサっと刺さって「あ、もう駄目だ」って。そうすると、ロケとかに行っても朝から晩までずーっと食べ続けてしまって、夜中にばーっと嘔吐してしまったり。
「痩せたね」っていうのも、褒め言葉だと思ったら大間違いだということはわかってほしいです。「もう太れないじゃん」って思っちゃうんですよね。
――周囲に理解者は?
遠野 私はこの仕事をしてるから、まだ楽なほうかもしれない。業界的に、摂食障害の子は多いでしょうしね。業界の人は理解がある方が多いです。だから、お衣装あわせの時とか、仕事で摂食障害だと話しておいたほうがいいかなと思った時は、私はわりと言うようにしてます。
業界以外のお友達や知り合いでも、「前より痩せたね」と言われても「摂食障害なんで」とすぐ言うようにしています。そうしたら、知識がなくても調べてくれますし。「教えてくれてありがとう」って言ってくれます。
そうしたら、次から言わないように気をつけてくれたり、食事でも「無理しないでいいよ」って言ってくれたり、少ししか食べなくても何もつっこまないでいてくれる。
――そうやって話していくのも大事なんですね。
遠野 大事です。ただ、それは相手が理解してくれるかどうかにもよりますよね。「何それ、吐いちゃう病気?」「そのわりには肌つやつやだね」と言われたこともあります。そういう理解のない人もいっぱいいると思うので、その覚悟をもって言えるかどうかですよね。
強迫性障害、無意味と自覚しつつやめられない辛さ
――遠野さんは「強迫性障害」でもあると公表されていますよね。どのようなご病気なんですか?
遠野 いろんな種類の症状があるんですが、私の場合は「確認行為」です。例えば、IHから火が出るんじゃないかと不安になって何回も触って確認をしたり、後から確認をするための写真を何百枚も撮らないと家を出ることができなかったりとか、そういう行為です。
――その症状はいつから始まったんですか?
遠野 20代からだと思います。きっかけは、母と縁を切ってからかな。今思えば、母親も強迫性障害だったんですよね。
――今は治っているんですか?
遠野 治ってないです。お薬で治療中で、症状はだいぶ軽くはなりました。ひどいときは、家を出るときの確認作業に3時間もかかってました。泣きながら、「大丈夫、大丈夫。絶対大丈夫。絶対大丈夫」って何回も呪文みたいに言いながら確認していました。夏は汗でびちょびちょになりながら。今は10分、20分の確認行為で済んでます。
――強迫性障害の辛いところは?
遠野 無意味なことをやっている自分…ですね。
―― 自分自身に嫌悪感を持ってしまうことは……。
遠野 持っちゃいます。人に見られたりしたら、すごく嫌。だから、これも摂食障害と同じで、人に言ってしまいます。「強迫性障害という病気だから、ちょっと確認行為が多いんだ」って。言っちゃえば楽になる、自分が。
――周りに摂食障害や強迫性障害の人がいたら、どう接するのがよいでしょうか。
遠野 あまり気を遣わず、ごく普通に接してほしいですね。「無理しないでね」とか、ひと言言ってくれるぐらいがいいです。
強迫性障害のことを知らない人が見ると「何しているのかな?」って見てしまいがちですが、街中でそういう確認行動などをしている人を見かけても、素通りしてほしいです。からかわれたり、笑われちゃったりすると、打ちのめされた気持ちになります。
ただでさえ、確認行動をしている最中って、恥ずかしくてしょうがなくて、正直、殺してくれと思うくらいきつい。奇妙な行為をしているということは、自分が一番分かっているんですよ。それをからかわれるとどういう気持ちになるか、逆の立場だったらどう思うか、考えてほしいなと思います。
――摂食障害や強迫性障害で苦しんでいる方にメッセージをお願いします。
遠野 私は今も完璧に治っているわけではないですけど、明らかにお薬を服用して症状は軽くはなって楽に生活できているので、まずは病院にかかって、先生とよく話し合って、お薬で治療してほしいなと思いますね。そのお医者さまと相性が悪かったら、また違うお医者さまにかかって、相性のいい先生を探すことも大事だと思います。
また、治そうという気持ちも大切ですが、ある程度、腹を決めて共存していくことも大事だと思っています。症状と共存しながら、悲観ばかりせず、何か新しいことや楽しいこと……恋をする、旅行をする、ペットを飼うとか……視点をちょっと変えてみて、苦しいことにばかり目を向けないのも、一つの人生の楽しみ方かなと思います。
摂食障害の場合は、孤独が孤独を呼んで悪化していくというのもあると思うので、あなたは1人じゃないよ、ということをわかってほしいと思います。私も、その苦しみは、どれだけ苦しいかということを私もわかっています。私のように、症状に苦しんでいても、それでもテレビに出ようって、笑顔でいようって思う人間もいます。絶望しないでほしいです。
取材 たかまつなな/笑下村塾
監修 森隆徳(精神科医)
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