「ほとんどヤスくんのゴール」
「あそこにいることが重要でした」 旗手怜央はそう言って、胸を張った。後半開始早々、48分のチーム2点目は、いわば偶然だった。 脇坂泰斗のスルーパスで左深くへとマルシーニョが走り、内側に入ってきた脇坂に戻すと、ペナルティーエリアの左角付近から力強くフィニッシュ。そのボールが旗手の頭に当たってコースが変わり、鹿島のGK 沖悠哉の逆を取ってゴールに飛び込んだ。 「あれはほとんどヤスくん(脇坂)のゴール」と笑うが、「でも」と続けた言葉にプライドがにじむ。 「あそこにいて頭に当たって入るというのも、たまたまだとは思いますけど、そこに入っていくことも大事だし、それが結果につながったと思います。あそこに入っていくことをすごく意識している中でのゴールなので、良かったです」 危険なその場所にいること。それはまさにストライカーの本能ではないだろうか。ルーキーイヤーの昨季終盤からは左サイドバックでも起用されてプレーの幅を広げ、東京オリンピックの代表にも入った。だが、本来はストライカー。「そこにいた」のは、点取り屋の魂が震えたのだ。 では、あのときどうしてゴール前にいたのか。 「まずマルシーニョが持ったときに、(レアンドロ)ダミアンが中で起点になるのはわかっていて、いつもその前や後ろに入ろうとしています。あのときは前に入ろうとしたんですけど、バスが出てこなかったのでその後のもらう動きを意識してあそこにいたんです」 レアンドロ・ダミアンを軸にしてまずその前のニアゾーンを狙い、すぐ次に連続性のあるアクションを起こして実を結んだのだ。 「(脇坂のプレーが)シュートではなくてパスだったとしても、そのままヤスくんに返すかターンするかの選択肢があったと思います」 可能性を増やすために、そこにいた。ゴールのあとの驚きようと「たまたま」の言葉からは、脇坂のシュートをヘッドで流し込むことまでは選択肢にはなかったようだが、想定を超えてこそ新しい可能性が開ける。 「枚数が増えるので、あそこにいることが相手の脅威になります。それが自分の役割だと思っているので、入っていくことが大事です」 インサイドハーフでのプレーが整理されてきて、「攻守とも球際に出て行ける回数が増えたことは実感している」と強度高く戦った。強さも速さもうまさも兼ね備えたオールランダーとして、2年目の飛躍が華々しい。 取材◎平澤大輔 写真◎小山真司
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