人の生活と切り離せない「食」
スタートアップは何を目指すべきか
神奈川県川崎市のK-NICで「第35回NEDOピッチ」が実施された。同イベントは、オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)と、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共催による、オープンイノベーションを創出することを目的としたピッチイベントだ。第35回のテーマは「アグリ・水産ベンチャー特集」。
はじめに、農林水産省 大臣官房政策課の田島 隆自氏が業界動向を解説した。
「農林水産業にはさまざまな課題がある。中でも、高齢化は深刻。業界にかかわる人の平均年齢が、平成7年時点では59.6歳だったのに、平成27年には、67歳になっているというデータがある。人手不足も深刻。労働環境の改善さえあれば、雇用の受け皿になる余地がある。
また、農林水産業は重労働。例えば酪農は、牛の交配や搾乳など、ずっと見守り続けなければならず、労働力不足の解消や労働環境の改善が必要になっている状況では、現場の負担が非常に大きい。
こうした課題に対応するのがスマート農業。府としては、2025年までに、データを活用した農業を支援するという方針を打ち立てている。スマート技術でどういう将来像が描けるか、農林水産省では、農業大学や農業高校の人に認知させるのが大事だと思っている」
酢酸を使った資材で植物を強くする
アクプランタ株式会社
アクプランタ株式会社は「バイオスティミュラント資材」と呼ばれる植物用の資材を開発するスタートアップ企業だ。
同社では、地球環境の変化により、「干ばつ」や「猛暑」「塩害」といった、植物が環境ストレスを受ける場面は増加していると分析する。
同社の開発する「Skeeponシリーズ」は、酢酸を有効成分としたバイオスティミュラント資材で、芝や観葉植物、野菜といった植物に対して施用することで、植物が本来持つ環境ストレスへの耐性を高める効果があるという。それだけでなく、ストレス耐性が高まれば、潅水頻度を下げることができ、節水にもつながるそう。
代表取締役社長の金 鍾明氏は、「日本国内では、『バイオスティミュラント』という言葉自体、まだ知られていない。しかし、Skeeponシリーズも含めて、世界から注目を集めている」と話した。実際に同社は、大手企業が主催するアグリテックのコンテストでグランプリを受賞した経験もある。
温暖化がますます深刻化すると言われている中、これからも国内外を問わず注目されていく製品ではないだろうか。
ハエによる循環システムで食糧危機に立ち向かう
株式会社ムスカ
株式会社ムスカは、ハエの一種である「イエバエ」による循環システムを構築し、人口増加による食糧危機の解消を目指すスタートアップだ。
同社の提案するシステムは、旧ソ連が有人宇宙飛行を計画していた時代の、旧ソ連の技術と深い関係がある。
当時は、火星への有人宇宙飛行は、往復4年かかると想定されていた。この際、食糧の確保と排泄物の処理を解決するために、「イエバエ」を使った肥料と食糧の自給が開発された。
ところが、旧ソ連の崩壊によって研究の継続は困難に。同社は、この技術を引き継いで、イエバエによる循環システムを構築している。
COOの安藤 正英氏は、「堆肥を作るのに、これまでは1年以上の時間が必要だった。私たちのシステムなら1週間ほどで実現するだけでなく、温暖化ガスも削減できる。
家畜の排泄物を回収し、資源化し、製品にし、マーケットに流すまでの一連の動きをやっていきたい。自動化し、サプライチェーンを作るのが目標」と話す。
また同社では、宮崎大学との共同研究を進めており、同社の技術を使って生産された有機肥料を使うと、ラディッシュ、米、トマト、きゅうりといった野菜の抗菌作用がアップすることも確認できたという。
サナギから抽出した飼料用サプリメントを開発
株式会社愛南リベラシオ
愛媛大学発ベンチャーの株式会社愛南リベラシオは、カイコから有効成分を抽出した飼料用サプリメント「シルクロース」を2016年から販売している。
「ブランド鰤(ブリ)」の養殖場での飼料として採用された経歴もあり、身質が大きく向上したとの評価が得られたという。このほかシルクロースには、腸管免疫や体表免疫に作用することも確認されており、魚病に対する耐性付与や、色揚効果や身質改善効果が期待できるという。
同社代表の井戸 篤史氏によれば、「insect(昆虫)aquaculture(養殖)sustainability(持続可能性)」とインターネットの検索エンジンで検索した際のヒット数は、2010年から増え続けており、この分野には世界的な注目が集まっているのだという。
同社は今後、水産分野への販路拡大、畜産資料や健康食品への展開、シルクロースの国産化、新たな昆虫の事業化を目指していく構え。なおシルクロースは人が食べることもできるそうで、「サナギのいい香り」がするとのことだ。
昆虫を使ったハンバーガーで話題
エリー株式会社
エリー株式会社もカイコを使った事業を展開する企業。
同社が開発するのは、カイコから製造される次世代食品「シルクフード」「オルタナティブミート」だ。
同社 代表取締役の梶栗 隆弘氏によれば、タンパク質の不足は世界的な問題になりつつあり、2025年から2030年のあいだにも、需要と供給のバランスが逆転する=現状の生産体制ではまかなえなくなるかもしれないのだという。
カイコは、少ない餌の量、狭い土地でも大量生産が可能で、泣き声もなく、逃げにくい、密集させて育てても共食いをしないといった特徴を持ち、28日で収穫が可能なため、生産効率が極めて高く、タンパク室不足という課題を解決できる可能性がある。ここで課題となるのは昆虫食に対する抵抗感だ。
そこで同社が着目したのは「エリカイコ」と呼ばれる種のカイコ。エリカイコは味や香り、栄養価に優れ、約3000ほども機能性の候補物質(人体に有益な成分になり得る物質)があるのだという。
同社では、表参道にシルクフードを使った料理を味わえる店舗「シルクフードラボ」を5月までの期間限定でオープンさせている。シルクフードを使ったハンバーガー「シルクバーガー」は、SNSなどで見かけた方も多いのではないだろうか。シルクフードの特徴である深いコクと甘み、余韻が楽しめるというシルクバーガー。興味のある読者は、ぜひ一度訪れてみよう。
次世代の人の食べ物はコオロギ?
株式会社グリラスは発生生物学の経験をもとに「コオロギ飼育管理・育種」の専門会社として2019年に設立された徳島大学発のスタートアップ企業。
フタホシコオロギの完全自動飼育システムの開発と、ゲノム編集技術を用いた品種改良を事業としている。
同社によれば、コオロギは将来、人が食べる昆虫として最有力視されており、EUでは、「Novel Food(ノヴェルフード)」に指定され、すでに食品として流通している。
この動きと呼応してか、国内でも、小売の無印良品を手がける良品計画が2020年春期にも「コオロギせんべい」を発売することを予告している。実は、このコオロギせんべいに使われている「乾燥コオロギ粉末」こそグリラスの製品だ。
代表取締役 岡部 慎司氏は、「ミールワームなどと比べても、コオロギは味がよく、人が食べる昆虫に向いている。国外にも食用コオロギの飼育を事業化している企業はあるが、手作業によるところも大きく、ゲノム編集をした『機能性コオロギ』や自動飼育システム自体も、商品化できる可能性がある」と話す。
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March 19, 2020 at 09:00AM
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将来、人が食べるのはカイコかコオロギか。いま注目の農水産スタートアップ - ASCII.jp
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