昨年創業120周年を迎えた老舗中の老舗「新宿中村屋」に、久しぶりに訪れた。クラシックな制服のスタッフのきびきびとした接客がどこかノスタルジックな感じがして、懐かしく思えた。
もちろんお目当ては名物「中村屋純印度式カリー」(1870円、以下税込み)。何度も食べたはずだが、これほどおいしかったのかと思うほど新鮮な感動があった。
この“カリー”が誕生してから95年が経つそうだが、店の雰囲気とは裏腹に、現代的な味わいで、とにかく完成度が高い。小麦粉は一切使用しないというソースには、ほどよいとろみがあり、上質なブイヨンのコクと、なによりもスパイス感がたまらない。とろみに欠かせないヨーグルトだが、100年近く前、既に自営の酪農場で作らせていたという。使用するスパイスは20数種。1人前5グラム程度のスパイスを使う店が多い中、新宿中村屋は約7グラムも使っているのだ。
意外だったのは、下ごしらえを除くと調理時間は1時間から1時間半程度だということ。「カレーは一晩寝かせた方がおいしい。こんな言葉は新宿中村屋のカリーにとってはもってのほかです」と料理長の石崎厳さんは語る。長く置いたり、煮込み直したりすると、せっかくのスパイスの風味が飛んでしまううえに、鶏肉も硬くなり、パサつきがち。煮込まないのも大切なこと。あくまでできたてにこだわっているのだ。
温度にもこだわる。カリーは約85℃、ライスは約60℃に温度管理し、もちろん、ソースポットと皿は温めておく。口に運んだときに丁度(ちょうど)よい温度になっていてこそ、スパイスの香りが口の中いっぱいに広がるのだそうだ。やれることはすべてやるこの徹底ぶりに脱帽だ。
素材へのこだわりも予想はしていたが、それをはるかに超えていた。鶏肉は、特定の契約農家に依頼し、飼育日数、飼料、環境など、新宿中村屋指定の方法で飼育されたもの。よく運動し、よい餌を食べて育った鶏は、胸、ももがよく発達し、ゼラチン質も豊富だ。そのゼラチンがソースに旨み、とろみをつけ、身が引き締まった鶏肉は煮ても風味や食感を失わない。
タマネギは、淡路島産の1個300g程度の大玉。これを1人あたりおよそ1個使用する。今も自社で作っているヨーグルトは、味のバランスを考えて酸味(pH)を調整しているという。石崎さんは、中村屋に勤めて36年のベテランだが、「お客様に変わらぬ味をお届けするという使命は大きなやりがいであり、プレッシャーも大きい。ただ、だからこそ面白さがあります」と話す。先人が守ってきたものを次世代に繋(つな)げる。「それだけの価値が中村屋のカリーにはあります」
3世代にわたって通う客もいるというが、ぜひまだ一度も足を運んでいないカレー好きにこそ、試してほしい。老舗のカレーだと思って油断していたが、久しぶりに訪れた私には強烈なパンチを食らったような、インパクトがあった。
フォトギャラリー(クリックすると、写真を次々とご覧いただけます)
からの記事と詳細 ( 食べるたび新たな感動 老舗の貫禄「新宿中村屋」(東京・新宿) - 朝日新聞デジタル )
https://ift.tt/2NKoAOI
0 Comments:
Post a Comment