海洋に流れ出たプラスチックごみは、海の生態系を壊しているだけではなかった。プラスチックごみの上に乗って浮遊する生物からそれを食べる微生物まで、独自の生態系を育む場所を生み出しているという。 【画像】海に浮かぶプラスチックごみ プラスチックボトルは海洋ごみの大半を占め、概算では毎分100万本が海に流れ出ている。その最大の“罪人”がペットボトル(ポリエチレンテレフタレート)だ。 2021年6月、ある研究で2種類の細菌にプラスチックを分解する力があることが判明した。つまり、細菌がプラスチックを「食べる」のだ。実験室で分離された細菌で、「Thioclava sp. BHET1」と「Bacillus sp. BHET2」と呼ばれるものが、海でも発見されたのである。 この細菌は、膨大な量のプラスチックが漂う海洋という、独特の環境で生育しているらしい新たな生物の最新の発見例だ。
人間が作った“自然の”生態系
大気圏・磁気圏・水圏のように、「プラスチック圏」も一つの広域を指す。だがそれと同時に生態系でもあり、シベリアの森林ステップやサンゴ礁のように、プラスチックに覆われた海洋環境をも意味する。 海洋プラスチックごみの集積所として最も有名なのが太平洋ごみベルトで、いわばプラスチックのスープがざっとフランスの2倍の広さの海域を覆っている。とはいえ、プラスチックは至るところに存在している。 2013年の研究で、細菌や菌類などの微生物がプラスチックに寄り集まっていると初めて指摘されて以降、この「プラスチック圏」という用語は広まってきた。今ではおおざっぱに、海洋プラごみに乗って海を渡る、カニ類からクラゲ類までの比較的大きめな生物も含まれている。 この造語を生み出したのは、王立オランダ海洋研究所の海洋微生物学者リンダ・アマラル=ツェットラーだ。彼女はこう説明する。 「私たちは2010年に、プラスチック表面のバイオフィルム(互いに、そして別の物体に付着する生物)を特定する巡航調査を前に、プラスチックのサンプルを収集するつもりでした。その群集を指す便利な名前を考えていて、思いついたのが『プラスチック圏』だったのです」 名前は新しくても、この現象自体はそうではない。 「プラスチック圏は、プラスチックそのものと同じくらい前から存在しています」 新しいのは、プラスチック圏の生態系がどれほど複雑になり得るかを私たちが知ったということだ。ここには光合成をする生物がいる。捕食者と被食者がいる。共生者と寄生者がいて、アマラル=ツェットラー曰く「ほかの生態系と同じように、全面的な相互作用を可能にする」素地がある。 「生態系を『生物とその物理的環境が相互作用する生物学的群集』と定義するなら、プラスチック圏もほぼ間違いなく当てはまります」 こう話すのは、カナダのダルハウジー大学薬理学部所属の研究者で、6月に発表された研究論文の著者でもあるロビン・ライトだ。 プラスチック圏のもう一つの特徴は、それを人間がこしらえたという点だ。ほかの生態系はいずれも、何百年以上もの年月をかけて徐々に生成されたものだ。 「自然起源ではないということは、必ずしも重要ではないと考えています。というのも、プラスチック圏の構成生物はいずれも『自然』だからです。それよりも、規模の問題のほうが大事です」とライトは言う。 大半の自然発生した物質とは異なり、プラスチックは耐久性と持続性が高く、付着する生物の成長と拡散が広大なエリアで可能になる。 さらに昨年のある研究では、特定のプラスチックの色が、集まってくる微生物の多様性に影響することも判明した。たとえば、青色のマイクロプラスチックに付着した群集は、黄色や透明のプラスチックに付着した群集に比べて多様性が豊かだ。 プラスチックを中心とした生態系が世界中を移動できることも懸念材料だ。アマラル=ツェットラーは2013年の研究で、ビブリオ菌を見つけたとしている。これは、数種類の病原体を有することで知られる細菌で、なかには胃腸炎を引き起こすものもある。 プラスチック圏が病原体の住処となる可能性はあるものの、ライトは懐疑的だ。彼女はこう話す。 「プラスチック圏が、細菌の集まるほかの表面や、ほかのエリアよりも危険性が高いという具体的な証拠は、実はありません」
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