南オーストラリア州で発行されている新聞「アドバタイザー」紙に掲載された野鳥の写真に、目が釘付けになった。
そこには、オーストラリアでお馴染みの野鳥、レインボーロリキート(和名:ゴシキセイガイインコ)とマグパイ(和名:カササギフエガラス)が写っている。ゴシキセイガイインコが、思いっきり足を挙げて、自分より体の大きなカササギフエガラスをキックしているような格好だ。
ああ、「こっち来るな!」と威嚇しているのだな・・・と、微笑ましく眺めていたら、2羽の足元にある何か奇妙なものが目に飛び込んできた。白くて長いそれは、どう見ても『骨』のように見える。
骨?骨を巡ってこの2羽が抗争??・・・と、頭の中が一瞬、真っ白になった。
写真の説明は、こう書いてあった。
「レインボーロリキート(ゴシキセイガイインコ)は、アデレード動物園でトラが食べ残した骨についている肉を求めて、マグパイ(カササギフエガラス)と戦う」
マグパイは、和名のカササギフエガラスからもわかるように、カラス科の鳥で雑食であることから、肉を食べるのはよく知られているが、インコであるレインボーロリキートが、肉を欲して他の鳥と戦う...なんてことがあるのだろうか?
大変賑やかな #野インコカフェ
さあ、ここでクイズです!
-- Miki Hirano (@mikihirano) August 15, 2020
一体何種類の鳥が同時期に来たでしょう?#シドニー pic.twitter.com/qdo2h28F5J
上の動画の中で、最初から左側にいるのが「マグパイ(カササギフエガラス)」、15秒あたりから画面の左から飛んで入ってくるのが「レインボーロリキート(ゴシキセイガイインコ)」。紙面を載せることができないため、この動画で大きさの比較をしてみて欲しい。
肉を食べるロリキート、目撃情報が続々と・・・
ゴシキセイガイインコは、ロリキートまたはローリーという愛称で呼ばれるヒインコ亜科の鳥で、日本でもペットとして人気だ。
オーストラリア東部では、日本のスズメくらい頻繁に見かける野鳥でもある。ちなみに、シドニー郊外の我が家の近所には、スズメはまったくといっていいほど見かけないが、ゴシキセイガイインコは嫌でも見かけるほどたくさん生息している。
お風呂屋さんが大盛況
裏庭に大きめのバードバス作ったら、ピーちゃんの団体さんで来て、これ
小さいほうのバードバスもブッチャーくんが使ってくれてて、作った者としては嬉しい#野インコカフェ pic.twitter.com/1nNbb5fJo1
-- Miki Hirano (@mikihirano) April 27, 2021
ロリキートと呼ばれる鳥たちの主食は、花の蜜や花粉で、これらを集めやすいように舌先がブラシ状になっている。ゴシキセイガイインコは、これに加え、木の実や果実、ユーカリなどの葉につく小さな昆虫を食べることが確認されており、野生下では、主にこれらを食べているというのが、これまでの常識だった。
ところが6年前、肉を食べる野生のゴシキセイガイインコの目撃情報がニュースとなり、鳥類専門家やマニアたちに衝撃を与えた。最初の情報は、日本でもよく知られているオーストラリアの野鳥「ワライカワセミ」をはじめとする肉を食べる鳥たちのために、餌台に挽肉を出している人から寄せられたものだそうだ。
この時、世界中の鳥類を研究している豪グリフィス大学のダリル・ジョーンズ教授も驚きを隠せなかったと語っている。
「私は、世界中の鳥が何を食べているかを調べており、オーストラリア全土で鳥が食べているあらゆるものについて情報を得ているが、ゴシキセイガイインコが肉を食べるのというはこれまで聞いたことがなく、本当に驚きだ」
Meat-eating lorikeet study changes what scientists knew about the birds https://t.co/Gux7ysFfVj via @ABCNews
-- ABC News Science rss (@ABCNewsScience) November 1, 2016
ジョーンズ教授は、この時点では「ゴシキセイガイインコは、他の鳥が食べているのを見て、試してみたところ、気に入ったのかもしれない」と、『模倣からの行動である可能性が高い』と推測した。
しかし、これをきっかけに、野生下および飼育下のどちらにおいても、「ゴシキセイガイインコに限らず、コセイガイインコやユーカリインコなど、ロリキートやオウム類が肉を食べることはよくある」という報告が500件以上も寄せられたという。(参照)
オーストラリア全土で発生しているという『インコの肉食現象』に、専門家は困惑。なにせ、「主に草食、たまに昆虫食」くらいだと思っていた鳥が、肉をも食べることが判明したのだから...
ジョーンズ教授も最初は信じられず、ありえないと言った人もいたが、影響を見極めるにはさらなる研究が必要だと、世界中のインコ・オウム類の肉食習慣についての調査を開始。今では、CSIRO(豪連邦科学産業研究機構)も「ゴシキセイガイインコは、花の蜜や花粉の他に、肉を食べることが知られている」と投稿するほど、インコ類の肉食習慣は、一般的な事実として受け止められるようになった。
また、ゴシキセイガイインコは、ありついた餌への執着が強く、奪い合いとなった他の鳥を排除して、餌を守ろうとすることはよくある。だから、肉を餌として認識しているのなら、冒頭に書いたような、カササギフエガラスを攻撃することも起こりえるのだろう。
『鳥類は恐竜の子孫』とはよく言われるが、餌となる死骸(肉)を巡って、自分より体の大きな者を相手に果敢に戦うその姿を、小型の肉食恐竜と重ね合わせてしまうのは、恐竜マニアだけではないはずだ。
映画「ジュラシック・パーク」にでてきたヴェロキラプトルのような小型の肉食恐竜を彷彿とさせる...(Credit:estt-iStock)
ゴシキセイガイインコが肉を食べるようになったのは、とくに産卵期などのタンパク質を必要とする時期に、他の肉食鳥類のために人間が置いた肉に手軽にアクセスできるようになっていたためではないか...とする説が有力だが、なぜ肉を食べるのか、その理由はまだよくわかっていないという。
※インコ類の肉食が確認されたからといっても、たくさんのタンパク質を食べることに慣れていない種類の鳥にとっては、健康面に問題がでる可能性が高いため、インコ類を飼育している人は注意してほしい。(ジョーンズ教授談)
長い舌をだしてユーカリの花の蜜や花粉を食べる野生のゴシキセイガイインコ。やはり、メインの食餌は蜜や花粉であることには変わりなく、何時間も飽きずに食べている。(筆者撮影)
そして、今年に入ってからも、ゴシキセイガイインコの食餌に関する新しい知見が加わった。豪ニューイングランド大学の調査によると、ゴシキセイガイインコが、ヤナギの葉の裏からオレンジ色の菌糸類を採取して食べていることが確認されたという。これもまた、これまで記録されていなかっただけで、人類が知らなかったゴシキセイガイインコの生態の一部なのだろう。(参照)
次々とわかってくる知られざるインコの生態。これまでの科学でわかっていることは、まだまだ、ほんのわずかに過ぎないのだ。〈了〉
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