食欲を抑えるホルモンが効かなくなっている
身体が太るというのは、脂肪が増えるということです。では、なぜ脂肪が増えるのかというと、人は食べることによってエネルギーを得ていますが、生きるために必要なエネルギー以上に食物を摂取すると、余った分が脂肪細胞として蓄えられるからです。
いわゆる中年太りは、加齢とともに基礎代謝が低下するためにエネルギーの消費が減り、摂取したエネルギーの余剰分が増えることが原因と考えられてきました。
ところが、近年の研究で、加齢による基礎代謝の低下はそれほどないことがわかってきたのです。
では、なぜ、現実に中年太りは起こっているのか。
実は、人の脳には食物の摂取量をコントロールする機能があります。例えば、脂肪細胞はレプチンというホルモンを分泌しますが、脳の食欲中枢である視床下部がこのレプチンを受け取ると、食欲を抑える指令を出すのです。
実際、非常に太る人たちの中には、このレプチン遺伝子やレプチン受容体遺伝子の変異によりレプチンが効果を発揮せず、著しい体重増加を示す家系の人がいるのですが、その人たちにレプチンを投与すると食欲が低下し、体重が下がることがわかっていて、レプチンは人の正常体重の維持を行っていることが示されています。
つまり、脂肪が蓄積されてくると、脂肪細胞からレプチンの分泌が高まり、それが人の食欲を減らし、肥満の進行を抑えて体重を一定に保つことができるようになるはずなのです。
ところが、レプチンは分泌されているのに食欲が抑制されない現象が起こっているのです。それが中年太りに繋がっていると考えられます。
例えば、先に述べたように、レプチンの作用障害の家系の人にレプチンを投与すると効果が現れますが、残念ながら一般の肥満症患者ではそうはなりません。
実は、一般の肥満症患者では脂肪細胞の増加を反映して血中レプチン濃度は高値を示しているのですが、肥満症などのエネルギー過剰状態では、レプチンの視床下部における感受性が障害され、レプチンの抗肥満作用が減弱するのです。これはレプチン抵抗性と呼ばれる現象です。
現代は飽食の時代などと言われますが、人類の長い歴史の中でこのような状況になったのは、ここ100年くらいのことです。つまり、現代人は、人類がかつて経験したことがないほど、想定を超えるエネルギーを摂取するようになっているのです。
おそらく、そのあまりの過剰なエネルギー摂取によって、レプチンによる食欲コントロールが作用しなくなっているのではないか、と考えられます。
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