(※この記事は緊急事態宣言前の2021年4月頃に取材したものです)
「初ガツオ」の旬は3~5月と言われています。
脂のノリがいいのは秋の「戻りガツオ」ですが、年を取ると脂が控えめな初ガツオのほうがおいしく感じます。
というわけで旬の初ガツオを刺身とたたきで食べたい!
しかし、居酒屋の時短営業や酒類の提供禁止などが続くなか、仕事が終わった時刻に居酒屋での飲み食いができなくなってしまいました。
頼りになるのはスーパーマーケット。カツオの柵(さく)を買って、家でおいしく食べるしかない。幸いカツオの柵は価格も控えめでお財布にもやさしい。
そこで、魚のプロにスーパーのカツオをおいしく食べるための助言を仰ぐことにしました。
初ガツオは色がいいから「目で食え」
向かったのは、筆者が20年以上にわたって、とびきりおいしいカツオをいただいている地元・沼袋の居酒屋「大衆酒場 萬両」。
▲東京都中野区の沼袋にある「大衆酒場 萬両」は、昭和30年ごろ開業。この界隈の居酒屋では最古参だ
▲店主の高野光男さん(77)。先代である父親から店を引き継いだ
「萬両」の店主・高野さんに、スーパーで買ったカツオの柵を持参して、「刺身とたたきでおいしく食べたいんです」とお願いしてみた。
▲スーパーで買ってきたカツオの柵
──先ほどスーパーで買ってきたカツオの柵は100gあたり238円と手ごろな価格だったんですが、冷凍物を解凍したカツオなんですかね?
高野光男さん(以下敬称略):生のものだよ。マグロと違って初ガツオの赤身は冷凍に向かない。脂の乗った戻りガツオは、漁師が船で急速冷凍するけどね。
──初ガツオと戻りガツオの違いってどこにあるんですか?
高野:九州で漁が始まる3月から春先に獲れるものを初ガツオ、夏から秋に獲れるものを戻りガツオという。初ガツオは、フィリピン沖から餌場を求めて北上している途中のものなので、脂身よりも赤身が多い。戻りガツオは、餌をたっぷり捕食しながら三陸沖まで北上し、夏の終わり頃から南下してきたもので、肥えて脂がたっぷり乗っていることからトロカツオとも呼ばれるみたい。
──カツオは傷みやすいことで知られてますよね。でも、今は年中スーパーでカツオの柵が手に入る印象ですが。
高野:最近は冷蔵の技術が進歩したから、スーパーでもいいものが出回るようになったんだよ。初ガツオは色がいいから「目で食え」とも言われてる。
──なるほど。確かに今日買ってきたカツオの柵も、ピンクがかった赤色でキレイですね。おいしいカツオの柵の見分け方ってありますか?
高野:カツオは柵にした時点で、どんどん鮮度が落ちていって、赤黒くなったり、虹色に光ったりするので、それは生臭いしやめたほうがいい。鮮やかで真っ赤な柵を選ぶこと。今日のカツオの柵は、いい色じゃないかな。
──確かに切り身で売っているカツオの刺身やたたきは、古いものだと紫色っぽくなっちゃってますよね。マグロは赤いまんまだけど。
高野:切り身よりは柵だよね。特にカツオはスーパーで買うなら柵のままを買うに越したことはない。
カツオは厚めに切ったほうがうまい
──さっそくですが、このカツオの柵を居酒屋レベルで味わうコツを伺いたいんですが。
高野:買ったばかりの新鮮なカツオの柵を、よく研いだ包丁で切ることくらいだよ(笑)。
──シンプル……。
高野:まあ切り方でアドバイスするなら、カツオは厚めに切ったほうがうまいよね。身が柔らかいから、厚くして歯ごたえを出すの。だから買うときも大ぶりなカツオの柵を選んだほうがいいんじゃないかな。あとカツオはマグロの赤身と違ってすぐに変色するから、すぐに食べないものは必ずラップして冷蔵庫に入れることだね。
▲付け合わせは下から、大根を細切りにしたもの、僕の出身地・京都では「うご」と呼ばれる海藻のエゴノリ、大葉。
高野:何でエゴノリや大根を敷くかというと、高さを出すため。ベチャッと寝かせちゃうとうまそうに見えないからね。
▲大根の細切り、エゴノリ、大葉の上にカツオをのせて、おろした生姜を添えて、小ネギを散らして完成。まさしく、職人による店の盛りつけ
──ほんと、これだけで居酒屋っぽい盛りつけになりますね。自宅晩酌のテンションが上がることうけあいです。
カツオのたたきは皮つきの柵を使うのが鉄則
──では続いて、もう1つの柵でたたきの指南をお願いします。
高野:皮つきの柵じゃないとたたきはできないよ。
──あー、そうか。皮つきのは売ってなかったんですよ。何で皮がないと「たたき」って無理なんでしょうか。
高野:皮を炙ることで、カツオ独特の香りとうま味を得られるんだよ。
──たしかに、赤身だけに火を通しても、たたきの味わいは得られないですよねぇ。
高野:特に初ガツオは脂が乗ってないから、あんまり焼くと硬くなってうまくないの。好みにもよるけど、たたきは戻りガツオのほうがうまい。ふっくら仕上がるからね。だから、たたきを作りたいなら皮つきの柵を買うこと。もしくは1匹まんまで売っているカツオを皮つきでさばいてもらうことだね。
▲そんな高野さんが、これからカツオのたたきを作ってくれるという!
高野:今日、店で出すカツオをさばこうと思ってたからさ。
──わ。見せてください。
▲鹿児島から1日おきに空輸で購入しているというカツオ
そうなのです。「萬両」のカツオは丸ごと1匹をさばいて、刺身とたたきを提供するから新鮮でうまいわけなんです。
ちなみに、高野さんは数年前までは毎日、移転する前の築地市場まで車で買い出しに行っていたそうです。
カツオのたたきは家庭用のガスコンロでも作れる
では今日のカツオを解体してもらいます。
出刃包丁でガシガシ。
血合の部分を削ったら、見事な皮つきの柵が誕生。
解体開始から、ここまでわずか1、2分ですよ。さすがプロ!
へえ、金串を3本刺すんだ。
家庭で直火焼する際は、環境を確認し、煙の上がりすぎ、匂いなどにご注意ください。
高野:バーナーがあればそっちのほうがうまく作れるよ。でも、面倒くさいからウチは直接火で炙ってるの。
ガスコンロの火で皮のほうを強めに2〜3分ほど(コンロの火力によります)炙る。焦がし過ぎないように、外はカリッと、中はレアの状態を保つためじっくりと。
いい香りがしてきた。やっぱりカツオのたたきは皮が命だ、うん。
赤身の部分は、やや遠火にして1分少々炙って完成。
高野:赤身の部分は色が変わるくらいでじゅうぶんだよ。
包丁で撫でているだけに見えるが、サクサクと切り身になっていく。身が崩れないためにも、よく研いだ包丁が必要不可欠です。
これが、いつも私がいただいている「萬両」のカツオのたたきですよ。作る過程を初めて見せてもらいました。
こちらも大根の細切り、エゴノリ、大葉の上にカツオをのせて、すりおろしたニンニクと生姜を添えて、小ネギを散らせば完成。
高野:ニンニクの匂いが残らないほうがいいという場合は、すりおろしじゃなく、スライスしてのっけたらいいよ。
──どっちの食べ方もおいしいですよねぇ。しかし高野さん、皮つきの柵を見つけたら、たたきは家庭用のガスコンロで簡単にできるんですね!
高野:できるよ。昔はね、でき上がったカツオのたたきを氷水にぶっ込んでたの。
──あ、その作り方はテレビで見たことがあります。
高野:でも、氷水に浸すとうま味が逃げちゃうから、できあがったら冷蔵庫に入れて自然に冷やすようにしたんだよね。
──「萬両」ではいつも刺身と同じく醤油でいただいてますが、ほかにどうやって食べたらおいしいですか。
高野:たたきの身にポン酢とか塩をまぶしてからネギを振ってもうまいよ。ポイントはネギを振る前に押さえるように叩いて、味をなじませるの。だから「たたき」って言うんだよ。
──なるほど。炙ることが「たたき」だと思ってました。
カツオの「漬け」と「煮つけ」はめんつゆでじゅうぶん
さて、余ったカツオの柵はどうしましょうか。
「萬両」では、カツオは刺身かたたきでしか提供しないので、それ以外のアレンジ方法を高野さんに聞いて、自宅で作ることにしました。
──おすすめのアレンジ方法はありますかね。
高野:「漬け」か「煮つけ」がいいんじゃない?
──タレのレシピを教えてください。
高野:家庭ならめんつゆだけでじゅうぶんだよ。臭みをとるためにおろし生姜を混ぜてさ。
──え!? しょうゆやみりん、酒の調合をメモしようと思っていたんですけど、ズボラな当方にとって朗報です!
高野:煮る場合のアドバイスは、ぶつ切りにしたカツオの身を1回湯通しして、生臭さを取ってからめんつゆで煮てね。
カツオの漬け丼
では「漬け」から作ってみます。高野さんに教えていただいた通りめんつゆを使って、自分なりのアレンジも加えました。
材料(1人分)
- カツオの柵 100g
- めんつゆ(3倍濃縮タイプ) 150cc
- おろし生姜 大さじ1
- ごま油 大さじ3
- ごはん 適量
- 刻みのり お好みで
- 小ネギ お好みで
1.カツオの柵を、すぐに漬かるように薄めにスライスした後、めんつゆ、おろし生姜、ごま油と一緒にビニール袋に投入する。容器に漬けるよりもめんつゆの量が少なくて済みます。
最後にごはんにのせて「漬け丼」にするため、ごま油は「ちょっと油っこいかな?」と思う大さじ3くらいを推奨。ごま油と白米の相性はバツグンですから。
2.漬け時間は冷蔵庫に入れて約30分ほど。
3.炊きたてのごはんに2をのっけて、刻みのりと小ネギを追加。
短時間ですけど、しっかりとカツオがめんつゆとごま油に漬かって濃厚な味わい。ごはんが進みます。
カツオの煮つけ
材料(1人分)
- カツオの柵 100g
- めんつゆ(3倍濃縮タイプ) 60cc
- 水 240cc
- おろし生姜 大さじ1
1.ぶつ切りにしたカツオを湯通しする。
2.水、めんつゆ、おろし生姜を鍋に入れて沸騰させる。
3.2に1を投入して、中火でコトコト4〜5分煮る。
こんなに簡単なのにうまい!
麺つゆとおろし生姜でシンプルに煮たカツオは、しょうゆ、ラー油、マヨネーズなどを足すと味変ができて、酒のアテやごはんのおかずにぴったり。
巣ごもりが推奨されているご時世、ぜひスーパーで売っているカツオの柵で、手軽においしいカツオ料理を作ってみてはいかがでしょうか。
撮影:松沢雅彦
店舗情報
大衆酒場 萬両
住所:東京都中野区沼袋1-39-4
電話:03-3389-7009
営業時間:17:00~23:00(※営業時間は新型コロナウイルスの影響により随時変更あり)
定休日:日曜日
書いた人:沢木毅彦
インタビュー、映像作品レビュー、企業取材、配信サイトの番組紹介などをやっているライター。居酒屋でスマホいじりながらの一人飲みが最大の贅沢。食事は自炊派で、作るのが簡単な麺類を愛好。米のごはんは週1回程度でOK。その際は納豆か卵は必須。外食ならラーメンは天下一品のこってり、カレーはcoco壱番屋の10辛。激辛好き。巨人ファン。
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