「食のバリアフリー」を目指し、ユニバーサルデザインのカトラリーを開発・販売する猫舌堂(大阪市)はこのほど、唇が感動する「iisazy(イイサジー)」シリーズから箸を発売した。「iisazyお箸」は一般的な箸よりも口元部分が細くなめらかで、摂食嚥下障害など口の中がデリケートな人でも食べやすい。熊本の老舗箸メーカー「ヤマチク」(熊本県南関町)とコラボし、素材に竹を使った。(ライター・遠藤一)
「猫舌堂」はこれまで、一般的なカトラリーに比べ、口に入れる部分がフラットで小さい「iisazy spoon」「iisazy fork」を販売。摂食嚥下障害があっても食べやすく「食べる喜び」を取り戻せるきっかけを提供する商品を作ってきた。 開発のきっかけは、代表の柴田敦巨さんのがん経験から。柴田さんはがん手術後に顔面にマヒが残り、うまく食事を取れなくなったことで、外食しにくくなってしまったのだ。 2014年当時、関西電力病院の看護師だった柴田さんは「耳下腺がん(腺様のう胞がん)」の手術を経験。耳下腺の近くには、顔面神経という顔の筋肉を動かす神経も通っており、手術では全摘の際に、顔面神経も同時に切除することに。顔の左半分に、顔神経マヒが残ることになった。 辛かったのは自分の気持ちの落ち込みよりも、周囲の人が「どうしたの」と心配する姿や、柴田さんの変化を見てぎこちなくなってしまう瞬間だったという。 食事を取る際にも、片側の唇が動かず食べこぼしなどが出るようになった。「食べている姿を見られるのがつらかった」という柴田さんは、友だちとの食事が楽しみだったが、行きにくくなってしまったという。
■ 「あるある」話から起業へ
こうしたなか、治療と並行して、ネットで仲間を探し始めた柴田さんは、2015年のある日、オフ会で彼らと外食をすることに。「彼らのおかげで、一人じゃないと思え、2016年にがんが再発した時も、前向きに手術や治療に臨めた」と振り返る。 顔面マヒの食べこぼしなどの経験も「あるある」話として盛り上がれた。柴田さんは「一人じゃないと思えた」と振り返る。 現「猫舌堂」顧問の荒井里奈さんとも、オフ会で出会った。舌をほぼ全摘出した荒井さんは長い間、チューブで消化管に栄養を直接摂る生活を送っていた。「自分は一生ご飯を食べられなくなったのかな、すごく社会的な疎外感があった」という。 オフ会で盛り上がる話題の一つに「世の中は、なんでこんなに食べにくいスプーンばかりなんだろう」というのがあった。 木のスプーンでは滑りにくく、大きく分厚かったり、深すぎたりするものはこぼしてしまう。口を開く事自体もおっくうにもなる。プラスチックでは味気ない。「これは良さそう」と色んなスプーンを買ってみても、何か違うという。 同じ経験を語り合い「分かる、分かる」と話していると、ふと「それだったら作ったらいいんちゃう」という話になった。 柴田さんが務めていた病院の運営会社、関西電力には社内ベンチャー起業チャレンジ制度があり、コンペに通ると出資や事業支援をしてくれる。 看護師の後輩に「気軽に立ち寄れて、相談できる場所をつくりたい」と話してみると起業チャレンジ制度を勧められた。カトラリー製作のアイデアは、チャレンジに応募する際、ビジネスプランを考える中で真剣に向き合ったなかで、生まれたものだ。 「医療現場ではできないことがたくさんある」と当事者になってわかったと言う柴田さん。2019年末に応募すると採用され、実証実験を行い、2020年2月、関西電力のグループ企業として「猫舌堂」を立ち上げた。
からの記事と詳細 ( がん当事者が「箸」開発、「食べる喜び」取り戻す(オルタナ) - Yahoo!ニュース )
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