年末年始になると、ごちそうを食べる機会が増えるものだが、その体への影響は食べるタイミングによって異なる。なぜなら、私たちの体に備わっている体内時計にしたがって、食事に適した時間とそうでない時間があるからだ。そこで、体内時計の観点から、私たちはいつ食べると健康にいいかについて詳しく見てみよう。
私たちが日々、夜眠って朝目覚める生活を送れるのは、24時間周期のタイマーとして働く体内時計のおかげだ。これはさらに空腹を知らせたり、消化のスケジュールを決めたり、日々のホルモンの量を管理したりするなど、多くの機能に関わっている。もちろん、健康にとっては体内時計が安定し、食事のタイミングがそれにマッチしている状態が望ましい。
体内時計が乱れると
だが、体内時計が安定しない人もいる。たとえば、日勤と夜勤が短期的に入れ替わったり、時々夜勤が入ったりするシフトワーク(交代勤務)で働く人々だ。
米国では約1500万人がシフトワークに従事している。これらの人々の健康状態を調べた研究は、シフト制の労働者は睡眠障害と肥満の割合が高いことを示唆している。また、夜勤のある人は、午前9時〜午後5時という通常のスケジュールで働いている人より、太りやすい傾向にある。
看護師を対象にしたある研究では、夜勤の場合、同じ活動をしていても日勤のときより消費カロリーが減っていることが判明した。別の研究では、シフト制の労働者は日中に働いている人に比べて、心臓発作、脳卒中、不整脈と心血管疾患のリスクが40%上昇することがわかっている。
原因はまだ解明されていないが、シフト制の労働者の健康や代謝が乱れるのは、体内時計が乱れるうえ、食事のタイミングも不安定になるせいだと思われる。
体内時計にそぐわないと
実は、現代社会に生きる私たちの食事のタイミングは、体にとって食事に適した時間とそもそもズレていると言える。私たちは夜になると食べたくなるものだが、体の機能的には早い時間に食べたほうがいい。太陽の光や1日の予定など、外的な条件を一切排除した環境に置かれたとき、日中に普通に活動している人は午後8時ごろに最も空腹になり、午前8時ごろに最も空腹を感じないことが研究で明らかになっている。
そうした食欲のリズムは、人類が誕生した当初は強みだった。だが、現代の生活では害をもたらしているのかもしれない。
食事において最も重要なホルモンの一つがインスリンだ。インスリンには細胞がエネルギー源の血糖を取り込むための鍵を開けるような役割があり、血中のブドウ糖の量を調節している。このインスリンが効きにくくなる、すなわち抵抗性が高まると、悪循環が生じて血糖値が上がり、太りやすくなる。
インスリンの分泌と体の反応は、体内時計のリズムに従っていることが動物実験で示唆されている。哺乳類を対象に、インスリンへの感受性と抵抗性が最も高い時間帯を調べた結果、感受性は活動期(起きているとき)に最も高くなることがわかった。一方、インスリンの抵抗性が最も高くなるのは睡眠時間帯だ。人も同様だと示唆する研究結果があり、食事のタイミングが血糖値に大きな影響を与えることがわかっている。朝と夜に同じものを食べた場合、朝より夜の方が血糖値が上昇する。
また、脂肪細胞のインスリン感受性は早い時間に高まるようで、正午にピークに達する。正午は真夜中に比べて、インスリン感受性が50%ほど高い。つまり、人間の体は特定の時間帯に食べるようにできているということだ。
事実、「間違った」時間に食べると、すべての歯車が狂ってしまう。マウスの研究では、通常眠っている「間違った」時間に餌を与えられたマウスは、餌を与えられたときにいつもより多く食べ、その結果、一日の総カロリーが10%多くなり、体重が増えた。
人でも同じ影響があることが徐々に明らかになっている。減量をテーマにしたある研究では、被験者の食事のタイミングを20週間にわたって比較したところ、昼食を早く食べた人は遅く食べた人より体重が減るという結果が出た。遅い時間に食べる方がエネルギーの消費量が減るとする研究もある。
消化管にもリズムがある
消化管は空腹時にお腹を鳴らすだけでなく、私たちの食習慣に大きく関わっている。マウスの糞を分析したある研究では、マウスが活動しているとき、代謝や細胞の成長、修復を促進する細胞の活動の兆候が多く見られた。一方、マウスが休んでいるときは、解毒などに関連する遺伝子が多く見つかった。
消化管の腸内細菌は体内時計の影響を受けており、その細菌の種類は変化する。これは良いことで、腸内細菌の多様性が高い人は低い人より健康なようだ。腸内細菌の多様性も、何を食べるかだけでなくいつ食べるかにも左右される。多くの種類の腸内細菌は一日を通して、一定のサイクルで増減していることがマウスの研究でわかっている。
なぜ食欲はずれているのか
私たちは、たとえ健康に悪くても、遅い時間に食べ物をほしがるようにできていることは先に述べた。なぜ私たちの食欲は生理的なリズムとマッチしていないのだろうか?
長い目で見れば、人類にとっては次にいつ食べ物にありつけるかわからない時代が長く続いた。その間に、人は体に食料を蓄える仕組みを進化させたのかもしれない。そして、人はその害を実感するほど長生きではなかった。いずれにせよ、体にとって大事なのは次の10年ではなく、次の1日を生き延びることだった。
現代は食べるものが豊富にあるため、そのような貯蔵能力はもう必要ない。私たちは長い時間をかけて獲得した適応に打ち勝ち、いつ食べるかを賢く選択しなければならない。つまり、朝は多く、夜は少なく食べるべきなのだ。
文=MICHAEL CRUPAIN, MICHAEL CROIZEN, AND TED SPIKER/訳=米井香織(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年12月17日公開)
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