Wednesday, October 6, 2021

東北の「食べるラー油」止まらぬ進化 ブームから12年、今や定番に - 河北新報オンライン

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「牛タンラー油」ができるまで

 食欲の秋。つやつやの新米はそれだけでおいしいが、ピリリと辛い「食べるラー油」があれば、何杯もおかわりしたくなる。一大ブームを巻き起こしたが、あれからおよそ12年。今ではご飯のお供にとどまらず、万能調味料として確固たる地位を築いた。東北各地の特産品を巻き込みながら進化を続ける「食べるラー油」の今を追った。(編集局コンテンツセンター・佐藤理史)

累計販売280万本を突破した「牛タン仙台ラー油」

思わず生唾

 仙台と言えば牛タン。ならば、仙台を代表する食べるラー油は「牛タン仙台ラー油」と言っていいだろう。
 牛タン加工品製造販売「陣中」の看板商品で、2011年の発売以来、累計280万本(今年8月末現在)を売り上げた。人気の秘密を探るため、仙台市宮城野区福室の本社工場を訪ねた。
 不織布ガウンに着替え、粘着ローラー、エアシャワーなどによる異物除去を受けて、いざ潜入。
 まず目に飛び込んできたのは重さ400キロの大釜だ。赤い液体の中で、牛タンがぐつぐつと煮込まれている。「絶対にうまい」。完成前の状態に、思わず生唾を飲み込んだ。

出合いは瓶の中

 肉の風味が消えないように、「牛タンとラー油が瓶の中で初めて出合う」という製法が特徴だ。
 ごま油をベースに数種類を調合した油に唐辛子、揚げニンニク、揚げタマネギなどを加え、風味豊かなラー油を作る。ラー油からこし出したニンニクとタマネギは、しょうゆや砂糖で味付けした牛タンと一緒に煮込む。両方を瓶に詰め、加熱殺菌して完成する。
 うたい文句は「具の9割 牛タン」。ごろごろとした1センチ角の肉は柔らかいが食べ応えもある。ラー油という名称から連想される乱暴な辛さではない。
 牛タンのうまみ、甘みを感じた後、ピリリとした刺激が訪れる。ほかほかの白ご飯に合わせるのが最強だ。

芸能界でブレーク

 レシピを考案したのは、もともと和食の料理人だった福山良爾(りょうじ)社長(63)。「食べラー」ブームの当時、営業社員の提案を受け、数カ月で商品化した。
 人気に火が付いたのは意外にも、ブームが過ぎた後だった。16年ごろ、仙台市出身のお笑いコンビ「サンドウィッチマン」の伊達みきおさんがテレビ番組で紹介し、芸能関係者にお土産として配ったことがきっかけとなりブレークした。
 18年にアイドルグループ「嵐」の番組で取り上げられた時は1カ月で7万本近く売れたという。千嶋淑昭(ちしまよしあき)営業部長(63)は「広告や販売に関しては正直、特段の努力はしていない。ただただありがたい」と語る。
 取材中「全部見せます。何でも撮ってください」と言われた。類似品が出回る中、企業秘密が守られるかと心配になった。千嶋部長は「素材を吟味し、手間暇かけて作っている。簡単にまねできないぐらい奥行きは深い」と説明する。
 製造現場を見ると、あくを丁寧に取ったり、落としぶたをしたり、和食の技法が生きていると感じられた。食品工場というより厨房(ちゅうぼう)の雰囲気を醸し出す。砂糖などの原料や加熱時間は常に見直し、細かな改良を重ねている。胸を張る理由が分かる気がした。

牛タンのみにあらず

 宮城県特産の食材をぎゅっと詰め込んだ食べるラー油が誕生した。コンストラクト・モーメント(仙台市太白区)が4月に販売を始めた「宮城の山」「宮城の里」「宮城の海」の3種類だ。
 それぞれ5種類の食材を使用。「山」は蔵王町の蔵王鴨や大崎市岩出山の凍り豆腐を使い、さんしょう風味に仕立てた。「里」は大河原町の和豚もちぶた、仙台雪菜を練り込んだギョーザ皮を加え、ショウガ風味に味付けした。「海」は三陸のホヤ、茎わかめ、名取市閖上のシラス入りでニンニクの風味を利かせた。
 昨年、コロナ禍による消費低迷で生産者の販路が縮小したことを受けて企画。県の「食材王国みやぎ選ばれる食品づくり支援事業補助金」を受けて商品化した。製造を担当する阿部琢郎さん(50)は「宮城県を紹介するお土産にもぴったり」とPRする。

「食べラー」好きの裾野広がる

 同社は2011年から青葉区一番町で居酒屋「肴処(さかなどころ)やおよろず」を営む。お通しの冷ややっこに手作りの食べるラー油を添えて提供したところ評判となった。青森県産の高級ニンニクをふんだんに使い「なかむラー油」の名称で13年から本格的に販売。月3000~4000本の製造を続ける。
 「食べラー」ブームが一過性に終わらなかった理由について阿部さんは、客層の拡大を指摘。「初めは辛いものやニンニク好きな男性中心だったが、今は30~50代の女性にシフトした。万能調味料として常備する人が多い」と話す。
 3商品の用途として定番の卵掛けご飯や冷ややっこを勧める。その上で「山」を散らした冷たいソバ、「里」を塗って焼いたバケット、「海」をあえたパスタなど、さまざまなレシピも提案。「長く愛される商品に育てたい」と意気込む。

宮城県産品を詰め込んだ「宮城の山」「宮城の里」「宮城の海」

東北発の「食べるラー油」

▽牛タン仙台ラー油(仙台市宮城野区)
 100グラム750円。辛口、ショウガ入り米油、オリーブ辛油、そぼろの各種もそろえる。連絡先は陣中(0120)723850。

▽宮城の山、宮城の里、宮城の海(仙台市青葉区)
 120グラム756円。連絡先はコンストラクト・モーメント022(399)9447。

▽青森の旨辛にんにくラー油(青森県十和田市)
 110グラム700円。十和田市特産のニンニクとゴボウのカリカリ食感を楽しめる。素揚げした後に味付けしている。連絡先は青森第一食糧0176(23)7118。

▽いぶりがっこラー油(秋田市)
 180グラム700円。秋田県名物いぶりがっこにラー油を合わせ、粉末チーズでまろやかに仕立てた。県北部のブランドネギを使った「白神ねぎラー油」もある。連絡先はフルゥール018(846)0977。

▽小田原屋の食べるラー油(福島県郡山市)
 110グラム450円。創業80年以上の漬物店が作った。食べるシリーズは他に、和風ごま油、オリーブオイル、麻辣醤(マーラージャン)などもある。連絡先は小田原屋024(943)0300。

青森県十和田市特産のニンニクとゴボウを使った「青森の旨辛にんにくラー油」
秋田県特産いぶりがっこをチーズ風味で仕立てた「いぶりがっこラー油」
シュールなデザインの「食べるラー油」。福島県郡山市の漬物店が作る

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