多少の無理をしつつ無上の楽しみを求める
この料理は、白身の魚をできれば丸ごと一匹蒸して、白髪ネギや生姜の千切りをたっぷりとのせたところに中国醤油をベースにしたタレをかける、というもの。仕上げに、熱した油をジュワッとかけるところが、ポイントです。そしてこの時の油がピーナツオイルだったりすると、透明感とコクとが同時に加わり、白身魚の味を最大限に引き出す立役者となるのでした。 香港で初めてこの料理を食べた時、あまりのおいしさに、私はちゅ~るにありついた猫のようになりました。が、八割がた食べ終わった時に、お店の人が身ぶり手ぶりで、しきりに「ご飯を食べろ」とアピールしてきたのです。言葉は通じないのに、お店の人が魂で「ご飯を食べろ」、と叫んでいたのがわかってしまった、と申しましょうか。 まだ来ていない料理もあるというのに、なぜ今、白いご飯を‥‥? と思いつつも、白いご飯を持ってきてもらうと、店員さんは次に、皿に残った魚、ネギや生姜、パクチーなどを、タレと一緒にご飯にかけてみろ、とのゼスチャー。 おお、それは素敵。‥‥とアドバイスに従ってみると、これがまた悶絶(もんぜつ)するほどの味。醤油っぽい味の魚でご飯を食べるというのは、日本人にとっては全く珍しくない行為ですが、ネギと生姜、パクチーの風味も加わり、さらにそれを油が取りまとめるという一体感はそれまで経験したことがなかったものでした。例の、先が太い箸ではとてもはやる気持ちに追いつくことができず、レンゲを使用して陶然となって食べていると、件の店員さんは、 「でしょ?」 といった笑みを残して、立ち去っていったのです。 日本で、塩ジャケだの鯵(あじ)の干物だので食べる白いご飯も、確かにおいしい。がしかし、もしも死ぬ前に、 「白いご飯と、何か魚を食べさせてあげましょう」 と神様に言われたなら、石ハタの清蒸を選んでしまうかも‥‥と思った私。以降、香港に行った時は、多少の無理をしつつその料理を注文し、そして最後はご飯にかけて食べることを、無上の楽しみとしていたのです。
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