Thursday, January 23, 2020

意外と知らない「食べる力が落ちた高齢者の食事にトロミをつける理由」 - 文春オンライン

食べる力が落ちた高齢者の食事にトロミが必要なのは、飲み込みやすくするためじゃない

 いつもとても元気のいいケアマネジャーの中田涼子さん。訪問歯科の依頼はほとんどのケースでファクスが送られてくるところから始まるのですが、中田さんからはまず電話がかかってきます。

 「先生、先生、先生」

 「おぉ、どうした」

 「先生、またお願いしたい人がいるんですよ。先生にしかお願いできない人が」

 「またぁ、みんなにそう言ってるでしょ」

 「あっ、ばれました」

 「いつものことでしょ。どうしたの?」

 「実は、 嚥下(えんげ) 障害って言われて退院した方なんですけど、トロミをつけると全然食べたり飲んだりしてくれないんですよ。本人が好きじゃないみたいで。それで、トロミなしで食べられるかどうか見てほしいんです。病院からはトロミを付けるよう言われているんですけど」

 「なかなか難しいね。トロミが嫌いっていう人はいるからね」

病院の指示は「トロミをつけて」だが、それでは食べない

 

 吉田節子さん(仮名、91歳)の家の前に着いた時、玄関先で中田さんが待っていました。僕の姿が見えると笑顔で大きく手を振り、「先生」と叫びます。割と恥ずかしい。僕は無表情を装って到着。

 「先生、ありがとうございます。こちらです。どうぞどうぞ」と中に通されました。「お前は家族か!」と無言でツッコミました。

 吉田さんは息子さんの博さん(仮名、63歳)と二人暮らし。中田さんと家に上がると博さんが奥から出てきて、「初めまして、この度はよろしくお願いいたします」とあいさつします。

 「五島です。よろしくお願いします」と会釈をしていると中田さんが「こっちこっち」とせかしました。

 リビングには車椅子に乗った節子さん。「初めまして、五島です。よろしくお願いします」と頭を下げると、節子さんは声を出さずにこちらを見ながら軽く頭を下げました。「いつもはどんなものを食べておられるんですか?」と博さんに尋ねると、「えっと、どうでしょう。トロミ剤を入れて」と、ちょっと要領を得ない話になりそうです。それを遮るように、中田さんが、「ほら、トロミのお茶でいいんじゃない。あれを先生に見てもらえば?」と言われると、台所から湯飲みを持ってきました。僕はそれを受け取って、「あぁ」と声を発してしまいました。液体とは言い難いドロドロのお茶です。

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