氷食症は「鉄欠乏性貧血」という病気に関連した症状の可能性があります。鉄欠乏性貧血は一見健康そうに見える若い女性にも多い病気です。
このコラムでは、氷食症と鉄欠乏性貧血について解説します。
1. 氷食症の歴史
「冷たいものを好んで食べる習慣は、病気と関係がある」という考えは、紀元前の古代ギリシャ時代から存在したようです。ヒポクラテスやアリストテレスといった偉人も、冷たい水や氷の摂り過ぎは良くないものだと述べています。
記録に残る最も古い氷食症の人物は、9世紀のビザンツ皇帝テオフィロスのようです。彼は明君とも言われますが、アッバース朝への遠征失敗や故郷アモリオンの戦いでの敗北により大変なストレスを抱えていたようです。そして、「ストレスで荒れた胃の炎症をおさえるために、雪を食べていた」と示唆する記述が残っています[1]。
医学書には16世紀頃から「氷や雪を好んで食べる病気がある」と明記されはじめています。
しかし、鉄欠乏性貧血との関連が特にクローズアップされたのは、家庭に製氷機が普及し、血液検査が手軽にできるようになった50年ほど前からの話です[2]。
2. 氷食症の人はみんな鉄欠乏性貧血?
氷を好んで食べる人はみんな鉄欠乏性貧血、というわけではありませんが、これらには深い関係があります。
どれくらい氷を食べれば氷食症とするのかが明確に定まっていないものの、ある研究では「鉄欠乏性貧血の人の約6割が氷食症」と報告されています。また「男性よりも女性の方が氷食症になりやすい」とも言われています[3]。
このように、鉄欠乏性貧血の人は氷食症になりやすいです。しかし「なぜ鉄欠乏性貧血と氷食症が関連するのか」は現在でもよく分かっていません。「氷を食べると貧血による口の炎症がおさまる」、「氷を食べると貧血で減った脳への酸素供給が増える」などの説があるようです[4]。
なお、氷食症の原因としては鉄欠乏性貧血以外にも、強迫性障害など心の病気や、単なるストレス過多なども知られています。
3. 若い女性に多い鉄欠乏性貧血とは?
さて、ここで鉄欠乏性貧血について解説します。
血液中には酸素を運ぶ「赤血球」が存在します。そして、赤血球が不足することを貧血と呼びます。身体が赤血球を作る材料として鉄分が必須であり、鉄分が不足して貧血になることを鉄欠乏性貧血と呼びます。
貧血の原因は他にも、材料があるのに赤血球が作られない、作られた赤血球が破壊される、などを原因とした様々な病気があります。しかし、貧血の原因の約7割は鉄欠乏が原因とされ、鉄欠乏性貧血は最もよくあるタイプの貧血です。
極端なダイエットや偏食で鉄分摂取不足なのは、分かりやすい鉄欠乏性貧血の原因です。それ以外にも「身体のどこかから慢性的に出血して、それを補うために赤血球を多く作り続けた結果として鉄分が不足する」などが鉄欠乏性貧血の原因となります。
なぜ若い女性に多い?
鉄欠乏性貧血の人は若年〜中年の女性に多いです。月経で定期的に出血した分を補うために、多くの鉄分を消費して赤血球を作っているからです。若い女性はダイエットしている人が多いのも理由に挙げられます。
鉄欠乏性貧血を放置すると、以下のような症状が現れます。
【鉄欠乏性貧血の主な症状】
- めまい
- たちくらみ
- 動悸
- 息切れ
- 疲れやすい など
鉄分が多く含まれる食事を心がけたり、鉄分入りのサプリメントを数ヶ月間ほど続けると、貧血の改善に伴って上記の症状は改善します。しかし、鉄欠乏性貧血の人では鉄分を補充するだけではなく、出血が異常に多いのかどうかをハッキリさせることも大事です。
月経の出血量には個人差があります。そのため、多少出血が多くても問題ないこともあります。しかし、健康診断で貧血を指摘されるような人は、一度婦人科で相談してみることをお勧めします。子宮筋腫など、月経の出血が増える病気が隠れていることが少なくないからです。
男性や閉経後の女性は大丈夫?
月経による出血がない男性や、閉経後の女性も鉄欠乏性貧血になることがあります。例えば胃潰瘍やがんなどにより、気付かぬうちに胃腸から出血していることが考えられ、原因として少なくありません。
鉄欠乏性貧血になる頻度は若い女性のほうが多いものの、男性や閉経後の女性でも鉄欠乏性貧血は注意すべき病気のサインになりえます。先ほど登場したビザンツ皇帝テオフィロスもストレスなどで胃潰瘍となり、胃から出血して鉄欠乏性貧血となった結果、雪を食べるようになったのかもしれません。
4. さいごに
氷食症の歴史、氷食症と鉄欠乏性貧血の関連、鉄欠乏性貧血の注意点などを解説しました。
普段健康診断を受けていない人、特に氷を好んでかじる人は貧血チェックのためにも健康診断を受けることをお勧めします。健康診断を毎年受けている人は、血液検査で貧血と言われていないか、いま一度確認してみてください。
ちなみに、健康診断でひっかかるような貧血でなければそれほど心配する必要はありませんが、貧血に至らない軽度の鉄分不足でも氷食症になることがあるようです。
氷食症は貧血のサインとなる以外にも、歯の摩耗や欠けにつながったり、顎関節症の原因になりうるので、あまり健康上よい習慣とは言えません[5]。
このコラムが、自身の健康習慣を見直すきっかけのひとつとなれば幸いです。
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。
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